<出会い>に学ぶ生き方の極意

No.10 ~地元有志の支援で親子らが自然の中で体験学習~

No.10 ~地元有志の支援で親子らが自然の中で体験学習~

真の教育者は人の心に灯を点す

 「教育を衣食住のためにする人を教員という。知識、技術を授ける人を教師という。そして、子供の心に灯を点す人、これを教育者という」

 この一節は、知る人ぞ知る徳永康起先生(故人)の至言である。国民を導く教育哲学者として名高い森信三先生をして、「明治以降のわが国の教育界における『百年一出』の巨人」と言わしめたほどの人物。

 徳永先生の情熱と徹底ぶりは、教育界の代表的な「肥後もっこす」と伝えられる。今もなお、心ある教育者にとっての大きな目標だ。

 徳永先生は熊本県出身で、35歳で校長に就任。だが5年間の校長職を自らなげうって、平教員に降格願いを出す。念願かなって再出発し、生涯一教師を貫くという異色の教育者。詳細を記す余白はないが、その足跡と実績はあまりにも得難い。

 最近の教育現場を垣間見ると、教員教師ばかりが圧倒的に多い。真の教育者に出会えないのが、寂しく幸い。なぜに、学校嫌いの子供、勉強しない子供が増えるのか。それが当然なのか。さりとて、すべてを学校の責任に帰すのも行き過ぎか…。

 私は一般市民なので教員にも教師にもなれないが、立志さえあれば教育者にはなり得ようか。子供の心に灯を点そうと念願し情熱があれば、教育者の真似事ぐらいはできよう。

 私たちの親子農業体験塾「志路・竹の子学園」づくりに気負いなどはなかった。だが、問題多出の教育現場に対する憤りが創設の動機の一つになったのは確かといえる。

雪雨の中で新しい出会いと交流

 今年4月2日、広島市安佐北区白木町志路の現地で、心新たに「竹の子学園」は第三期の入塾式を催す。

 今冬は予想外に長引き、式の前々日には学園付近で小雪も舞った。平年ならば彼岸桜が満開で、塾生らを迎えてくれる。残念ながら、今年は堅い蕾のままで知らぬ顔。昨年は真っ赤に咲き誇った霧島も、まだ蕾にさえなっていない。異例の天候だ。

 今期に集まった塾生は、6年1人、5年3人、4年2人、3年2人、2年4人、1年6人の合計18名。

 塾生をブルー、イエロー、レッドの3チームに分け、それぞれ地元のお世話役に農業指導をお願いした。

 他にも正規塾生ではないが、幼稚園の年長組五名が特別参加している。

 かなり低学年化した今年は、歓声も一段と甲高くにぎやか。同伴の保護者、祖父母、幼児などを合わせると総勢六十六名の構成で、盛況だ。

 塾の学習や行事はすべて屋外で催すので、雨は最大の難敵。プレオープンを含めると第二期まで計二十回開塾してきた。幸いにも、予報は雨模様だった時も天に守られたのか、現実に出会ったことは一度もない。

 今期もテントを二カ所に張って入塾式の準備に万全を期す。朝の式開始前後は小雨でさして邪魔でない。

 ところが、入塾記念品となる「手作り額」製作の時点で、予報にない激しい豪雨に見舞われ、雷も鳴った。

半世紀前のご縁が、今また実る

 過疎地にある「竹の子学園」は、塾生らが耕す田畑七百坪に、山を切り開いて造った公園や遊歩道など計5000坪の土地を使って活動できる。3カ所の休憩所、炭焼き小屋。キッチン棟などの設備も整っている。

 随所に植えられた梅、桜、百日紅、さつき、霧島、金木犀、山茶花、椿などが、四季それぞれに訪れる塾生親子らを楽しませている。都会では味わえない自然の情趣と魅力をプレゼント。竹林を通り抜ける風音のハーモニーさえも、心を癒やす。

 これら学園の環境整備をすべてボランティアで進めてきたのは地元の有志ら。半世紀も前からご縁がある。

 最近、映画「男たちの大和」が大ヒット。実は私の父も戦艦「大和」の護衛艦である駆逐艦「浜風」の機関長として沖縄特攻作戦に出撃し、昭和20年4月7日に戦死という。

 映画の主役が「大和」だったせいか、きれいすぎて戦争の悲惨さ、底辺の国民の苦しみなどは描き切れていない。幼い時、馬鹿でかい「大和」を実際に見て、帰らぬ父の駆逐艦を見送った私。浅薄なシーンの連続で、涙するどころか違和感を覚えた。

 話は前後するが、父の出撃後、私たち兄弟三人は母に連れられて、忘れもしない同年3月28日、父の郷里・志路(当時・高田郡志屋村)に疎開した。見知らぬ人々に囲まれて、住み慣れない農村の暮らしは、子供心にも辛く心細く厳しかった。

 そんな折、何くれとなく親身になって、私たちの面倒を見てくれたのが、親切なお兄ちゃんたち。今や「竹の子学園」を熱く支えてくださる地元の有志で、頼もしい方々だ。

巡り合わせの不思議に感謝しつつ

 五十数年間の歳月を隔って「竹の子学園」をご縁に、再び支援くださり、晩年の人生を有意義に彩っていただけるなんて思いも及ばなかった。

 学園創設に当たり運営・管理の労力は無償で提供してほしい– という私の厚かましい願いを快く聞き届けてくださる。その有志は代表幹事の竹下員之さんをはじめ、お兄ちゃんの佐伯成人さん、佐伯智弘さん、それに一緒に遊んでもらった佐伯孝信さん、一本木宗雄さんという顔触れ。

 加えて今期から、新たに三郎丸栄三さん、吉村博さん両名が支援の輪に…。計7名のお世話役はいずれも往時からご縁の続く昭和一桁生まれのお兄ちゃんばかり。有り難い。

 皆さんの平均年齢は74歳。古希の私なんて、まだヤングである。

 特筆すべきは、陰で支えてくださるお世話役の奥様方。女性らしいこまやかな気配りと素朴な人情が、円満な運営の潤滑油になっている。

 直接の運営には、若いマルコシ社員の金本和宏さん、山野幸恵さん両名が、日曜返上で世話をしてくれる。

 塾生の新目標を今年付け加えた。まず《姿勢を正す》は、金本さんの「気を付け!」の力強い号令一発が見事に効いて美しく整列できた。

 次いで《明るく元気よく》は、山野さんのリズミカルな張りのある声と、きびきびした動きが奏功、子供らが更に躍動的になってきた。保護者らの協力で毎月、《物作り》のカリキュラムも組めるようになる。

 まだまだ「竹の子学園」は、高齢者パワーで更に進化し続けていく。

 ささやかな一灯ながら、教育者の真似事であっても、出会いとご縁を大切に、生命ある限り「一隅」を照らし続けたいと切に願っている。