<出会い>に学ぶ生き方の極意

No.9 ~ささやかな実践の積み重ねで伝統を育む~

No.9 ~ささやかな実践の積み重ねで伝統を育む~

感動いっぱいの車いす贈呈式

 春とは名のみの小雪舞う肌寒い2月27日お昼時、広島市立日浦中学校の教師や生徒らは、期待と喜びでひときわ緊張感に包まれていた。

 実は、「トイレ掃除の神様」として知られる鍵山秀三郎さん(イエローハット・創業者)が、わざわざ東京から同校を訪問されるからだ。

 用向きは、同校生徒らが6年前から取り組んでいる「アルミ缶を集めて車いすを必要ととする人に贈る」活動の贈呈式に出席するためである。

 そのアルボラ(アルミボランティア)活動の成果がすごい。今年で44台に達する「車いす」として花開いている。そのうち、平成17年度に購入した4台を、生徒らの念願がかなって、鍵山さんに受け取っていただける運びとなった。

 車いす贈呈式には、全校生徒228名が参加。企画、準備もすべて生徒によって行われた。

 式開始は午後1時45分。生徒の先導で穏やかな笑顔の鍵山さんが登場。講堂も割れんばかりの盛んな拍手の中、深々と最敬礼された。

 瀧口典子校長の歓迎あいさつに次いで、生徒代表から車いすを鍵山さんに贈り、続いて生徒ら手作りの記念品も、一つずつ手渡された。

 生徒らは緊張した面持ちで記念品 を説明する。その都度、鍵山さんはこぼれんばかりの笑みを添えて、温かい掌で生徒らの両手を握り締め、「ありがとう、ありがとう」と、言葉を掛けられた。

 鍵山さんからも、返礼として全校生徒にプレゼントが贈られ、約20分間、講話される。張りのある温和な声で「心と気持ち」「存在感」をテーマに話されたが、その中で〈日本一の中学校〉―と最大級の賛辞で、同校の偉業について評価された。

 一言も聞き逃すまいと傾聴する生徒らの真剣な表情が、会場の雰囲気を熱く感動的に盛り上げていた。

アルミ缶集めを仲立ちに新交流

 平成13年6月当時、地域の清掃活動に取り組んでいた私たちは、毎日拾い集めるアルミ缶などの有効活用を模索。多量の空き缶を地域の施設などに届けていたものの、必ずしも歓迎されてはいなかった。

 何となく気が滅入っていた頃、幸いにも安佐北区社会福祉協議会から日浦中学の活動を紹介された。早速届けると、何と驚くではないか、瀧口校長と河田優子教務主任が玄関先で出迎えてくださった。感激した。

 河田先生は、生徒たちによるアルボラ活動の理解者。生徒らの思いを汲み取り、カタチにされた立役者の一人で、鍵山さんと親交もある。

 同校の教師や生徒らと、新しい交流が和やかに始まった。教師の質の低下や学級崩壊などの嘆かわしい問題が昨今、マスコミなどを通じて取り沙汰され、心ある人たちの胸を痛めている。だが、谷あいに所在する日浦中学は別世界の感じがした。

 アルミ缶を仲立ちに始まった交流から、数多くの学びを得ている。同校を訪問する度に目撃した生徒らの純真な姿は、まさに「エンゼルの再来」と言っても過言でなかろう。

 一例を挙げる。始業前にアルミ缶をトラックに積んで届けた日。寒い同年12月の朝、多くの生徒たちが手洗い場でアルミ缶を洗っている。

 缶の中に捨てられたたばこの吸い殻などを、きれいに除去しているのだった。しかも他に空き缶を丁寧に足で潰している生徒たちもいた。

 理由を聞き、ハッとした。不純物が混ざっていると、価格が低いと言 う。それまで私たちは無造作に拾ったままで届けていた。その行為が生徒らの休憩時間を奪い、いたいけな手を冷水にさらさせていたのだ。

鍵山さん、瀧口校長を囲んで全校生徒らと
「車いす」の記念撮影(2月27日・日浦中学校)

全校生徒らの拍手 に見送られ、
「車いす」を押して退場する鍵山さん

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温かい心が伝わる鍵 山さんの手紙
(3月2日付で、筆者あてに届く)

すべて一生徒の思いから始まる

 気付かなかったとは言え、私たちの無神経な行動は、生徒らに負担をかけていた。これでは私たちにとっても、本来の「心磨き」という目的から大きく外れる。ささいと思える手抜きが、生徒らに重荷を強いていた。本当に申し訳ないと痛感した。

 以来、アルミ缶はきれいに洗浄し、完全に潰した形で届けるように切り替えた。ボランティア活動は時とし て「してやっている」意識が働く。

 本来、謙虚であるべき行いが、対極の傲慢さを生む場合も…。脳天に鉄槌を下された思い。猛省している。

 アルボラ活動は、車いすに助けられた一人の生徒の強い思いがきっかけで開始。またたく間に学級、学年、学校全体に広がり、地域まで動かす大きな運動に成長した。先哲の教え「すべては一人の思いから始まる」の正しさを、日浦中学の教師や生徒らは行動で見事に実証している。

 車いすを一台購入するには、アルミ缶が15万個も必要となる。累計44台を買うには何と660万個、重さに換算して88㌧。気の遠くなるような膨大すぎる数量だ。

熱心な教師らの志と指導で実る

 交流は、アルミ缶集めだけにとどまらない。「自分の後始末は自分でする」「他の人の後始末も進んでする」行いの象徴〈トイレ磨き〉が同 校の授業に採用された。やがて学校を巣立つ生徒の「卒業記念・トイレ磨き」として新しい伝統を育んだ。

 河田先生らは道徳の時間に、鍵山さん著「掃除に学んだ人生の法則」を生徒らに読み聞かせ、ささやかでも行う積み重ねの大切さを説いた。

  鍵山さんの講演ビデオを見せたり、 鍵山さんとの文通も薦めて、既に5年間も心の交流が続いている。

 卒業前に一度ぜひ鍵山さんに会いたい。尊敬する鍵山さんに車いすを受け取ってほしい。生徒らの熱い思いが届いて「車いす贈呈式」として結実。感激の出会いが実現した。

 鍵山さんは、価値ある車いす4台のうち3台を、必需とする来店客の利便のため提供。1台は自宅に置き、 必要な来客と将来に備えるとか。

 今年も3月9日、「卒業記念・トイレ磨き」に、3年生全員が参加して打ち込んだ。トイレに挑み汗を流す生徒らの後ろ姿に、また一つ鍵山 さんの思いが開花した感慨を覚える。

 アルボラ活動やトイレ磨き活動の 「成果」は、瀧口校長や教職員らの熱心な志と指導、生徒らの真摯な実践による意義深い勲章といえよう。

 車いすに寄せた鍵山さんとの交流は、全校生徒をはじめ関係者にとって得難いご褒美になったと思える。

 ふとしたきっかけで結びついた日浦中学の皆様とのご縁が、平凡ながらも実にさわやかで心豊かな日々を私に与えてくれた。感謝でいっぱい。