俳句歳時記

俳句歳時記 十月俳句歳時記 平成30年10月27日

十月俳句歳時記~晩秋~

草炎俳句会  石川 芳己先生

広島マルコシ句会の10月例会の作品を紹介しよう。今日も10名全員が万障繰り合わせて出席されている。10時開始だが、今日も早くに会場に着いて選句に余念がない。意欲満々である。皆さん晩秋の装いである。静かな、学びの空間である。

 

かくれんぼ鬼が迷ひし蜜柑山      芳己

 

特選

天  朝顔の絞りし滴空の色      日出美

絵手紙か染料の材料に朝顔を顔料とする為に朝顔の花を絞る行為が眼に浮かぶ。如何にも日本的な光景である。襷掛けの清楚な大和撫子を描いてしまう。滴は、その日の空の色であったと謂う。薄青か、群青色か、紺碧か。その色を想像逞しくするのである。

 

地  県道の修復ならず鳥渡る     栄子

今年は七月の豪雨災害に始まり、迷走台風に寄る被害と立て続きに被害に見舞われた。自然の猛威の前に人間の無力さを厭と謂うほど味わわされた。しかし、何処も復旧が遅れている。秋も深まり、多くの鳥が渡って来る時季になると謂うのにどうしたものか。

 

人  名月や夢も膨らむ月旅行     明男

名月を感傷的に愛でる時代は過ぎ去り、人間の欲望は月への旅行という冒涜とさえ謂われ兼ねない程に膨れあがっている。確かに、人間の可能性を信じていく上では夢と希望は純粋ではある。

 

入選

星飛んで願う一言言い忘れ    昌子

流れ星に願い事を祈ると、その願いが叶えられるという。作者は、まだあるお願いを一言言い忘れたという。信じる者は救われる。

 

萩の風下校の子らの笑ひ声    博子

萩の風の季語の斡旋が巧みである。仲良く下校する子どもたちの風景との取合わせが妙ある。何気ない情景を詩的に切り取っている。

 

還暦の旅やローマの秋にチャオ  恒子

夫婦して還暦を祝う旅がローマとは素敵である。そして、親しみをこめたイタリア語のチャオ。秋に呼びかける視点が粋である。

 

俎板の秋刀魚をつつく九歳児   勝子

子どもは好奇心の塊である。今捌かれようとしている俎板の上の秋刀魚に触りたい衝動を抑え切れない。秋刀魚の捉え方が面白い。

 

燥ぎ声ぴたりと止んで秋夕焼   弘子

子どもが帰る頃には夕焼けが美しい。中村雨紅の「夕焼け小焼け」の童謡の歌詞を彷彿とさせる一句。上五・中七が静寂感を際立てる。

 

無花果や永遠に嘘通す女     美紀恵

無花果には様々な謂れがあるらしいが、中七・座五との取合わせには、何故か違和感がない。嘘は通すという諧謔が愉快である。

 

重陽や牛乳温めパンを出す    輝子

菊の時分は少し寒くなる。牛乳も冷たくなり、パンも冷たい。温めて食べさせたいという優しさが漂う。家庭的な雰囲気の一句。

 

俳句は座の文学である。句会はその最たるものである。句会に参加して、選句したり、合評したりすることで、俳句の感覚が磨かれていく。牛歩の如くではあるが、マルコシ句会の会員の皆さんの熱意に感謝したい。継続は力なり。  

俳句は継続の文学なり。秋は物思いの季節。自然を確り描写しながら、人生の哀歓を五七五に託したいものである。