俳句歳時記

俳句歳時記 八月俳句歳時記 令和元年8月24日

八月俳句歳時記~初秋~

浮き世なほややこしくする暑さかな           雅幸

 

草炎俳句会  藤兼 雅幸先生の講評 

特選

天  語り部を継ぐ若者の原爆忌             恒子

「喉もと過ぎれば…」人は忘れるようにできているともいわれている。時と共に生々しい記憶を語れる人も少なくなり、しだいに風化していくのはやむを得ないのかもしれない。そんな中若い人がその語部を継いでくれる。今やヒロシマは世界平和の発進地としての役割をも担っている。その若者の意志はそこにある。世代を跨ぐ原爆忌のあり方を的確に捉えた深い作品となっている。

 

地  黙祷の背に滲みたる蝉時雨            美紀恵 

 サイレンが鳴り頭を垂れる、だれもが真摯な気持になる。意味の解らない小さな子供も、真似ごとで一応神妙な顔つきで下を向いている。日盛りの中、人は目を閉じると五体の感覚も敏感になるもの、背筋に汗が滲んできた、無音の世界聞こえるのは蝉の声だけである。その蝉時雨に身を委ねながらの一分間、「背」にクローズアップしたことで敬虔な気持さえも伝わってくる。

 

人  ふるさとの水を献げり広島忌            栄子

献水供養、一応各地の名水を採水地として揚げられているが、人それぞれこだわりの水を献げるようだ。献水をする人は水に敏感である。作者は「あの水ならきっと喜んでもらえるかも」と自分の故郷の水の美味しさを思い出し、ペットボトルを下げて向かった。そんな景が読みとれますね。平明ゆえストレートに気持が伝わってくる、優しさ溢れる一句となっている。

 

入選

予報士の声高らかに梅雨明けり           日出美
待ち望んでいた気象予報士の梅雨明け宣言、中七がまさに晴々感を醸しだしてますね。

 

往来の人影絶えて蝉時雨               昌子
住宅街か、真昼の二時三時あたり蝉の声がやけに強く聞こえる窓から通りを見ると人気がな。一番暑い時間帯の切り取りが見事ですね。

 

知り合いに付いて輪に入る初浴衣           輝子
最近では浴衣を着ることも少なくなった、何となく照れ臭い気もある。気持も控え目になっている自分にある種の驚きを感じている。日本女性らしい句ですね。

 

干梅の香をひとつづつ返しけり            博子
干し梅の作業は意外と手がかかる、天気も気にしたり、一粒づつ重ならないようにしないと黴がきたりもする。そして裏返す度にいい香りがする、根気の入る作業の一服ともいえる。

 

破れ戸の穴より見たる雲の峰             勝子
木枠に板を打ちつけただけの雑につくられた納屋か物置の木戸と想像する。古い家か農家くらいしか最近では見られない。この句の面白いところは単に小さな穴から大きな雲を見たことに止まらず、破れ戸ゆえのその内側にある物、時間を想像させてくれるところです。きっと作者の思い出の景ではないだろうか。

 

入選句総評
特選三句は季語が違うのもありますが、何れも原爆忌を詠んだものでした。さすが広島県人、着眼の奥深さと臨場感、県外の私より肌で感じるものが違うのだとに感心しました。
また今回のこの三句は限りなく並列に近い天・地・人です。それぞれ違う観点から真摯に詠まれ、原爆忌への敬虔な思いが奥底に流れています。素敵でした。
入選句についてもいずれ劣らぬもので、これ以外にもいい句がありましたし今月は豊作でした。
皆さんの「これは句になるかも」との嗅覚が確実に敏感になって来ているのかもしれませんね。
いわゆる目のつけ所、発想の良さが目立った今月でした。