俳句歳時記 九月俳句歳時記 令和元年9月28日
九月俳句歳時記~仲秋~
観ておられますかあなたも今日の月 雅幸
草炎俳句会 藤兼 雅幸先生の講評
特選
天 宿題の絵日記大きな西瓜割る 日出美
夏休み、絵日記をさぼってて10日分ぐらいまとめて書かなきゃいけない「なにかな~い?」とお孫さんにせがまれて、絵日記の材料のためにでっかい西瓜を買って来て急遽お家で西瓜割りを始める。微笑ましい風景がありありと解る。平明で無駄の無い表現が景を膨らませている。
「夜爪を切ると…」との言い伝えがあるが作者は気にしない、足の爪はいいのかもしれない。この足の一言がこの句を絵にしている。「足」だからこそ仕種姿勢が鮮明に見えてくる。男から見れば軽いエロチシズムさえ感じさせてくれるが、ある種飄々と詠まれている。
入選
法師蝉八十路の歩み急かさるる 昌子
夏の終わりを告げるかのような法師蝉、誰もが何か少し物悲しくなる。そんな時ふと自分の歳を思う。歩く速度も落ちているのだろうか、私の歳を知るはずもないのにと。
付下げの帯は若めに敬老日 恒子
今さら励まされてもと思いつつ、お声がかりに、せっかくなら着る機会の少ない着物にしようとする。そして、まだまだ張り合う気持をもっている作者のパワーを感じる句となった。
曼珠沙華あの世この世の風に咲く 美紀恵
不思議と彼岸の頃に先祖を迎えるようにあちこちで満開となる花。作者はそこに交叉するのは現世の風だけじゃないと気付いた。気付きにくい心象風景を敏感に捉え巧みに表現している。
年かさとなりて墓参のあれやこれ 栄子
代々のお墓を守りするのは親族の最年長者と暗黙の了解みたいになっている。兄姉従兄が先立たれ、自分におはちが廻ってきた。上五が家族構成まで想像させてくれるユニークな句にしている。
昼夜の主役替わりて虫の声 勝子
一読で実感する人も多いと思う。昼は蜩、夜は虫の声と両方聞こえるその短い期間を感慨深く捉えている。テレビドラマも新番組になる季節、それをも感じさせる句となっている。
入選句総評
天の句は、ど真ん中に切れがあって景が二つ並んでるという大胆なかたちをとっている。自由律俳句に近いとも言える。かといって中八なのに定型に読んでも違和感がない、不思議な句です。地の句は、こんな方も居られるのかと嬉しい発見でした。人の句、昔マリリン・モンローが記者たちに、いつも何を着て寝ているのかと訊かれたとき「シャネルの5番だけよ」と応えたとか、そこまでいかないけど、バスタオルだけかもと想像してしまう(私だけか)作者の虚心坦懐の生き様を感じさせてくれ俳諧味が滲み出ている。その他も心情の明るい句ばかりで愉しい選句でした。