掃除に学ぶ

1-3 ~妻の掃除~

妻の掃除

糖尿を治す?

 妻もわたしも血糖値が高く、正しい食生活を強いられています。

 妻は二度ほど入院し、その都度快方に向かうものの、退院すると元の木阿弥になります。その原因について妻は否定していますが、運動不足と過度のつまみ食いにあると思っています。

 わたしは田舎育ちのせいもありますが、50年のキャリアを持つ頑固な弁当派です。一日三食わが家の味を楽しみ、原則として外食をしないことにしています。

 そのため味見や残飯整理の機会が多く、糖尿の責任の一端はわたしの弁当づくりにもあると責められています。食べ物を必要以上に口に入れる入れないは、本人の自覚の問題だから責められるのは筋違いのようにも思いますが、糖尿退治への協力は夫として当然のことです。

夫唱婦随

 「掃除で糖尿を治そうや」
 「なにゅうバカなことをいいよるん。掃除で糖尿が治るもんね」
 「船井先生も言うとられたで。陰徳を積んだら心が穏やかになって、脳波が下がるんと。脳波が下がったら病気が逃げていくらしいで。陰徳を積むには、誰にも分からんように掃除をするんが一番よ。」
 「格好がわりいけん、わたしゃ掃除なんかせんよ。」
 「夜中にすりゃあええじゃない。夜中なら誰にも見られんし、運動にもなるし、一石二鳥よぉ。」

 このころ掃除の魅力に取りつかれはじめていた私は妻に強引にすすめ、ともかく夜のバス停を掃除することを承知させました。

深夜のデイト

 貧乏会社の経営者であるわたしの退社時間は、ほとんど深夜です。

 わが家から会社まで徒歩で30分かかります。

 仕事を終える15分前にテレコールをする。妻はただちに愛犬[乱]を連れて我が家を出発する。

 私は仕事を終え、掃除用具一式積んで会社を出発する。

 深夜のバス停で合流し、上り下りのバス停と周辺の掃除に汗を流す。

 色気のない深夜のデイトですが、夫婦が一緒になにかをするということは結構楽しいものです。

 犬を連れての単なる散歩よりも、掃除という目的が付加されれば継続も容易になります。

 当然のことですが適度の運動を必要とする糖尿病には良薬になる筈です。

婦唱夫随

 深夜の掃除デイトをすることにより、夫婦が円満になり、早朝出勤のサラリーマンにゴミひとつないバス停を提供できることは、経験しなければ理解できない喜びです。

 ところが困ったことに、いやいや夫に従って深夜掃除をはじめた妻が一転して掃除の魅力にとりつかれてしまったのです。

 私も普通の人間だから、ときには掃除を休みたいときがあります。

 「今日は疲れとるけぇ掃除を休もうや。」
 「なに言うとるんね。一旦やるいうて決めたらやり遂げにゃあ。神さんはちゃ-んと見とってよ。」

 出張で新幹線の最終便で帰っても広島駅の北口に、掃除用具を積んだ車で妻が待機しています。

 そのまま家にも寄らず、一直線にいつものバス停まで走ります。

 スタートは「夫唱婦随」でしたが継続は「婦唱夫随」。

 毎日の掃除が8年も続いているのは、妻の後押しによるところが大きい。 

(96年9月)