掃除に学ぶ

1-6 ~素手で便器を磨く~

素手で便器を磨く

ゴキブリのいない町

 岐阜県の関ケ原の近くに、池田町という小さな町があります。

 その池田町は、ゴキブリのいない町として全国的に有名です。

 ゴキブリの跳梁跋扈に辟易した中小企業経営者が、ホウサンと玉葱の組合せにより、簡単にできるゴキブリ駆除剤を開発し、町民に無償で製法を伝授したのが、ゴキブリのいない町づくりのキッカケといわれています。

 その後、ロコミで全国に伝わり、消費者の要望でゴキブリ駆除剤「ゴキブリキャップ」の製造元[㈱タニサケ] が誕生しました。

 タニサケの社長を務めておられる松岡浩さんは、わたしの掃除の先生のひとりです。

チリひとつない会社

 松岡さんは「掃除哲学」で著名な鍵山秀三郎さん(㈱イエローハット社長)を[現代の菩薩]として、尊敬し、師事されています。

 また㈱タニサケは、アプローチから事務所、それに工場にいたるまでチリひとつない会社としても有名です。

 わたしは、昨年10月社員と一緒に掃除哲学を学ぶため、㈱タニサケを訪問させていただきました。

 早朝6時に現地到着ということで広島を夜中に出発し、総勢16名がマイクロバスで東上しました。

 荒みのない顔や物腰はだれでもわかる。ニコニコ、イソイソ迎えられチリひとつない会社の状況に驚嘆する以上に、磨かれた(自ら)社員さんの姿にピックリ仰天。掃除がここまで人を磨くということを、はじめて日のあたりに実感したのです。

お掃除の実習

 到着してすぐトイレ掃除の実習をさせていただきました。

 わたしは勿論のこと、社員も便器を素手で磨くことになろうとは、夢にも思いませんでした。

 正直なところ、便器は汚いものと考えていたし(タニサケの便器はピカピカ)、手袋をして棒ズリなどで掃除するものと思っていました。

 松岡さん自らが、先頭に立たれての用具の説明、掃除の手順など聞きながら、カルチャーショックを受けたこともあり、いつのまにか素手で便器を磨いていました。

 社員も次々と素手で便器を磨きはじめましたが、どう感じたのか顔はともかく心のなかまで計れません。

 「結果的にトイレも便器もきれいになるが、目的は心を磨くことにある。」
 「ただし日々実践を積み重ねていかないと、理解できないだろう。」
と松岡さんのお話。

日々便器を磨く

 お話を聞いたり、ほんのちょっぴり素手で便器を触ったからといって「便器磨きの哲学」が理解できようもない。そうであればやるしかないではないか。

 翌日から会社のトイレ掃除をはじめたものの、心の葛藤はつづく。

 便器のふちの裏側からは、黄色の汁がとめどなく流れる。ときには流れが悪いのか、汚物が留まっていることもあります。その度に鍵山社長の「手は勇気がある。一度触れればあとは何でもない」の言葉を自分に言い聞かせる。

 「社長がなんで社員の汚物を処理しなければならないのか!」社員に対する恨みつらみ。

 便器と対決するたびに、自分の身勝手さや醜くさ、それに傲慢さと直面しなければならない。その辛さ。しかし、いつからということもなく素直になっている自分を発見。

 松岡さんから教わった 「やってみなければわからない」とは、このことか。便器磨き(心磨き)も2年目に入ります。まだまだ序の口です。 
 
(96年12月)