掃除に学ぶ

1-7 ~一心不乱の経験~

一心不乱の経験

お掃除に学ぶ会との出会い

 「ちょっと沖縄へ行ってくるけん支度をしてくれ。」
 「…………」
 「長靴に、雑巾と、作業者を忘れんように頼む。それにカミソリ、タオル、石鹸、シャンプー、パジャマもね。」
 「おかしげなものを持って沖縄へ何しにいくんね。」
 「タニサケの松岡社長に誘われて便所掃除にいくんよ。」
 「何が嬉しゅうて十万円も使うて便所掃除をせにゃあいけんの。おかしげな人じゃね。」

 妻はブツブツ言いながら、それでも機嫌よく送り出してくれました。
 沖縄掃除の会への参加は、岐阜県池田町のゴキブリ必殺王、タニサケの松岡さんのお誘いによるものでした。

 正式には「日本を美しくする会・〇〇掃除に学ぶ会」といいます。

 ○○のところに開催地名を入れるのです。この会は毎月のように全国各地で開催され、掃除の中から何かを学びとろうとする経営者が、毎回数百名参加して汗を流しています。

 参加者の大半は、自動車部品販売業・㈱イエローハット社長の鍵山秀三郎さんの掃除哲学の信奉者であり実践者なのです。

不思議なことばかり

 沖縄掃除に学ぶ会には、250名の経営者と若干の主婦や子供たちが、会場の那覇市立前島小学校に集まられました。

 参加者は20班に別れ、それぞれリーダーの指揮のもとに便器磨きに入りました。多少の県民性があるのかもしれませんが、想像を絶する汚れでした。本来白い便器であるはずなのに、白いところがほとんどない便器には唖然としました。参加したことにも後悔しました。

 やや躊躇しながら周囲を見回すと誰もが何のためらいもなく「素手」で、難物に取り組んでいるではありませんか。格好だけは一人前に整えているし、その場 にいるのだから逃げだすこともできず、「えいや-」とばかりに黄色の便器と格闘をはじめました。悪戦苦闘90分、見事に便器は生まれたままの姿に蘇りまし た。いや、それ以上に美しくなりました。

 この便器磨きの90分時、まさに一心不乱、無の境地にあったように思います。みんなニコニコしているし、満足感に溢れています。

 昼食は地元の心尽くしのおにぎりと味噌汁。衣服にしみついた優雅?な香りのなかでのトイレ談義。お掃除談義。10年の知己のように心と心が溶け合う。これまで経験したことのない不思議なことばかりです。

 誰もがやりたがらないことが、嬉々としてやれる。なにも考えないで集中して取り組める。はじめての出会いでありながら深いところで連帯している。大企業の経営者も、中小企業の経営者も、わたしのように零細企業の経営者も、同じように溶け合え素直になれる。

お掃除を学ぶ会で得たもの

 わたし自身がいかに傲慢で鼻持ちならない人間であったか。これまで7年も取り組んでいた清掃活動がいかに浅いものであったか。

 いつも困難なことには目をそむけ逃げていた自分。人間としての弱点を巧みに隠していた自分。問題があるたびに言い訳ばかりして、正当化しようとしていた自分。さまぎまなことに気付く。

 知らないうちは平気ですが、実像が見えてくると恥ずかしさでいっぱいになります。その恥ずかしさは、これから長い時間をかけ、実践の中で自分で始末しなければならないものです。

(97年1月)