超高齢化社会の「生きがい」チャレンジ

⑥外に出る 人に会う 話をする ちょっぴり学ぶ

⑥外に出る 人に会う 話をする ちょっぴり学ぶ

オフィスをサロンに出来ないか

時代の流れには抗しきれずかつては西日本最大のニュータウンと喧伝された高陽地区は、典型的な高齢化社会へと移行しつつあった。65歳以上の高齢者が25%に迫り、かつては槌音の高かった住宅リフォームの市場は一気に縮小化の道を歩み始めた。ビジネスの機会も減少した。

当然のことながら生き残るためには新しいビジネスのスタイルを構築しなければならない。わが社のオフィスは一リフォーム店としては贅沢に過ぎるほどのスペースを有している。その有効活用を図ることで生き残りを賭ける戦略に活路を見出そうとした。その一つがオフィスのサロン化である。地域の熟年層に自由に出入りしてもらい新しいコミュニティをつくる。その中から新しいビジネスチャンスをつかむ。

すべての人間は知的好奇心を満足させることを本能的に願っている。第四コーナーを回ってからの人生をどう生きるか、いろいろな手法はあるが、とりあえず「心豊かに生きる人生講座」と銘打って熟年対象に絞って呼びかけた。受講料を徴収しての講座だから、果たして応募があるかどうか不安だった。テキストは鍵山秀三郎さんが月刊「致知」に連載されていた巻頭言を採用した。果たして熟年者がわざわざ勉強にこられるか心配だった。何事も動機が善で志が高ければ案ずることはないと知った。当初の不安を払拭してくれた。

「心豊かに生きる人生講座」スタート

サロン風に円卓形式で定員を8名と決めた。講座スタイルは参加型とし、各自が自由に発言できるシステムとした。ところが困ったことが起きた。参加資格をフリーにしたため一般の主婦から一流企業を定年退職したエリートまで幅広い層が集まった。現実問題として参加型だけにその融合には腐心した。講義スタイルであれば問題にならない。

熟年メンバーの学ぶ~

中にはかつての権威をちらつかせるメンバーもいたが、物足りなかったのかやがて去っていった。自然の流れとして残ったのは、もっと素敵な生き方をしたいという精神性の高いメンバーばかり。これが幸いした。やがて『論語』を学ぶまでに内容は濃くなっていった。さらにメンバーの中には刺激を受けて火が付いたのか、一つのテーマを深く追い求めたいという人が現われた。

「人生講座」は毎月第2と第4の火曜日に開催する。いつの間にかメンバーが増え、午前と午後の2クラスになった。思いがけず講座はヒットした。公民館の講座などでは得られない熟年の絆のようなものが芽生えてきた。さらに一つの道を究めたいという欲求も芽生え始めた。思い切ってメンバーに自身の講座を持つよう呼びかけた。テーマは広義の「日本を知る」に絞った。すでに紹介した「日本のしきたり」の三島清一さん、「日本のことば」の入川実さん、「古代への道」の小山正さんが手を上げた。

「生涯学習」プラスワンステージの誕生

新しい講座は講義スタイルとし講師の独自のスタイルで展開することとした。ネーミングは「生涯学習・プラスワンステージ」。さらに幅広い熟年層に輪を広げるためだ。この狙いは当たった。これまでとは異質のメンバーがサロンに集い始めた。キャッチフレーズは『毎週水曜日は生涯学習の日』。3人の講師は決まったが、1ヶ月は4週ある。毎週と銘打ったからにはもう一人講師が必要になる。「人生講座」のメンバーである半田和志さんに白羽の矢を立てた。

課外授業

半田さんは広島県庁の上級幹部を定年退職したばかり。肺がんの手術を行いやっと社会生活に復帰した。郷土史に関心を持ち「山崎薬師堂」の石燈籠に刻んである「御大典記念」と「御大典紀念」の「記」と「紀」の違いに興味を持ち、その疑問の探究に熱中していた。同時に広島の「鳥居」や「仏像」にも魅かれており、その探求に余念がないときでもあった。幸いに4人目の講師を受諾してもらった。これで第1から第4の水曜日の講座開催が決まった。半田さんのテーマは「広島学」。
    

これで当初のオフィスのサロン化の目的は半ば達成した。「人生講座」と「生涯学習」の講師は自前の熟年。受講メンバーはすべてが地域の熟年者。高齢化社会に急速に変化しつつある地域に一石を投じた。新たに「住まいの物語」も加わり、1ヶ月に11講座、参加者は延べ120人を超える一大サロンに成長し、当初の目論見は予想をはるかに超え成長した。

「生涯学習」第4水曜日は半田和志講師の「広島学」

半田講師の講義内容は、借り物ではなくすべて自分の足で調査し、独自のテキストを編集しメンバーに提供する。さらに得意のパソコンを駆使し、伝えたい事柄を可能な限り映像化。視覚の訴え理解度をより向上させる。

広島には日本で初めて開発された商品が数限りなくある。創業百年を超える企業も多い。歴史ある神社仏閣、国宝級の仏像や絵画・書も数多い。私たちは長い間広島で暮らしていながら、広島が持っている価値をほとんど知らない。半田講師は一つずつを深めてメンバーに伝える。人間の持つ知的好奇心は、知らないことを知ることにより一層刺激を受ける。それは限りなく人生を豊かにする。したがって満足度は高い。

半田和志講師

生涯学習の受講料はワンコインの5百円であるが、これらは茶菓費に消える。講師料は奉仕を原則としている。したがって関連書籍の購入費、史実の調査費、テキストの作成費は全て持ち出しとなる。伊勢神宮の鳥居の講義をするためには、伊勢まで足を運び、現地で確かめる。半端な費用ではないが、ケチることはない。現場に立って確かめた中身の濃さは、他に比類がない。講座の熱気と人気が急上昇する所以である。現在ではバックデータの確認取材、公民館などの高齢者大学、地元の中学校の講義などで超多忙を極めている。正に高齢者が主役の時代の到来である。