超高齢化社会の「生きがい」チャレンジ

⑦ ~十年偉大なり 二十年畏るべし 三十年歴史なる~

⑦~十年偉大なり 二十年畏るべし 三十年歴史なる~

理想に走り 現実の厳しさを教わる

 

親子農業体験塾「志路・竹の子学園」は、平成十六年にスタートした。①子どもたちの教育、②高齢者の生きがいステージ、③過疎の活性化、④都市と農村の交流を麗々しく目的に掲げたものの、三年と持つまいと周辺から酷評された。無理もない。目的はともかくとして運営の方法が余りにも理想論に過ぎた。

 

農業体験の舞台になるのは、畑と田んぼがそれぞれ三百坪強。耕地は遊休資産だから費用は掛からないとしても、作付けから収穫するまで管理するには相当の人手が必要だ。労力はふるさとの先輩たちに甘えるつもりで、①「必要な労力は無償提供」を打ち出した。悠々自適の暮らしをしている豊かな高齢者たちは、費用を弁償したとしても請け負ってくれるとは限らない。それなのに無償では手を上げる人はいないだろうと友は翻意をうながした。

 

類似のこうした活動は大抵の場合役所や農協の支援で成り立っているが、そのありかたに違和感を持っていた。その思いが自主・自立の旗印を掲げさせ、②「公的な助成金は受けない」とした。市の教育委員会から支援したいと申し出があったが、気持ちだけありがたくいただくと丁重にお断りした。勿体ないことだと後悔したが、今更後には引けない。

 

活動に親子と銘打っている以上、親子のペアが参加してくれなくては成り立たない。③「学園運営に必要な費用は参加者負担」とした。土地代や労力は無償としても、耕作機械の使用料、タネや苗の購入費用、害獣防御の設備費、自然体験の施設づくり、気が遠くなるほどの費用が必要だ。可愛いわが子のためとはいいながら、そこまでの費用を負担してまで入塾する親子がいるのか。

捨てる神あれば助ける神あり、世の中は捨てたものではない

 

田植え体験、芋ほり体験、稲刈り体験など、類似の農業イベントは各地で展開されている。大抵の場合は農家が費用を負担し、わずかな参加料で都会の子どもたちに農業体験をさせる。参加する親子はリクリエーションの気分で非日常的な一日を楽しむ。それなりの意義を否定するものではないが、少なくともその雰囲気は教育ではない。農作物の種を蒔き、手入れをしながら育て、苦労して収穫しなければ、体験の意義は半減する。教育を標榜するからには少なくとも一年を通してプロセスを体験する必要がある。中途半端な覚悟では途中で挫折するのが落ちだ。夢をカタチにするには熱い思いを語るしか他に道はない。

 

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紆余曲折はあったが、夢は思い掛けなく実現する。難問の①はふるさとの先輩たちが、「過疎の活性化になるし、高齢者の生きがいにもなる。倒れるまでやろうじゃないか」とあっさり引き受けてくれた。捨てる神あれば助ける神あり、世の中は捨てたものではないと知った。難問②は六十五歳から支払われる企業保険が代役を果たしてくれた。まだ現役で働いていたから、当面、それを当て込んでも生活に支障はない。

 

問題の難問③だが、子供の成長に役立つならと多くの若い親たちが理解を示してくれた。最低限の費用を賄う親子ペアが応募してくれた。とりあえず二~三組だけでもスタートしようと腹を決めていただけに、運営が成り立つ十五組が参加。嬉しかった。ここから先は高齢者の「金持ち」「時間持ち」「智恵持ち」の財産が存分に発揮されることになる。ベースになったのは「高齢者の生きがい」である。能力を発揮できるステージさえあれば、彼らは健康である限り存分に役割を演じてくれる。

十年偉大なりと称えられるが…

 

過ぎてしまえばどんな苦労でも楽しい思い出に変わる。スタート時の難儀は一枚の絵でしかない。第一期の塾生の多くは今春、社会人として新しい人生を歩み始めた。もっとも実現困難と予測していた自然体験のステージは、ふるさとの先輩の一人が三千五百坪の舞台を提供、造成や管理の諸費用を含めて子どもたちのために整えてくれた。昨年、十周年を迎えるにあたり、感謝の思いを込めて記念の碑を建立した。

 

支援してくれた先輩たちは八十路を超え、畑や田んぼの農作業に耐えられなくなった。まさに「十年偉大なり」の大功労者であり、その功績を称え拍手を贈りたい。「ぼつぼつ引退させてほしい」との申し出を感謝いっぱいで受け止めた。十年もの長い間、無報酬で支えてもらった。残念ながら後継者はなく、新しい体制で「二十年畏るべし」に挑戦し、さらに「三十年歴史なる」を実現するのが唯一恩に報いる道である。

すでに心の準備はしていたし、この機会に怯むことなく新しい目標にチャレンジしたかった。それも協力者あっての構想である。テストケースとして前期からサポーター制度を取り入れていた。「人生講座」のメンバーにお願いしたところ、快く手を上げていただいた。しかし、新しい仕組みには問題が少なくない。

 

新メンバーで未知の体験にチャレンジ

 

手を上げてもらったのは入川実さんを代表として六名。椋田克生さん、田畑栄造さん、米沢隆子さん、米今菊子さん、佐藤小百合さん、他に応援団の松本孝司さん。いずれも六十歳代の熟年層。メンバーは揃ったものの課題はたくさんあった。一つは全員が農業の未経験者であること、もう一つは市内から現地に通わなければならないこと。この二つは大きなハンディとなる。野菜の作付けローテーション、種苗や肥料などの手当、ミニ耕運機、それに草刈り機など農機具の使い方の勉強もある。

 

新しく論語講座、竹林教室、二世代交流などのカリキュラムを試みた。子どもの教育と自然体験にウエイトを移している。慣れないことだけに失敗は数限りなく経験したが、それらはすべて肥やしになっている。毎月のミーティングや農作業日の設定も決まり、新しい方式は定着しつつある。運営の原則は不変である。すでにジャガイモ、トウモロコシ、ナス、ゴーヤの収穫は終えた。稲も順調に生育している。

 

これからタマネギ、ダイコン、ハクサイなどの植え付け、それにサツマイモ、サトイモ、ネギなどの収穫も予定している。未知の世界だけに不安もいっぱいだが、チャレンジの楽しさはそれを超えている。何とか無事に実りの秋を迎えたいと祈るような思いの日々である。

 

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