超高齢化社会の「生きがい」チャレンジ

⑧なぜ、掃除をするだけで、こんなに変わるのか~「地域を美しくする会・広島」活動の軌跡

⑧なぜ、掃除をするだけで、こんなに変わるのか
               「地域を美しくする会・広島」活動の軌跡

「地「地域を美しくする会」の誕生

 

平成十一年一月九日土曜日、JR芸備線玖村駅の駅前広場は真っ白い雪が降り積もった。夜明け前の午前5時、掃除用具を積んだ軽トラックが二台到着した。熟年の老夫婦と若者が二人、掃除用具を下ろしトイレの前に運んできれいに並べた。掃除の神様と称された鍵山秀三郎さん(イエローハット創業者)の掃除哲学に魅せられたものたちの振る舞いだった。「本日〝地域を美しくする会〟が誕生しました。ひたすら町を美しくする活動を始めます。まずは地域内の駅のトイレをピカピカにすることからスタートします」と宣言。

 

あの日から十六年の歳月が流れたが、町を美しくする活動は続いている。毎週土曜日、地域内の六つの駅のトイレをローテーションでピカピカに磨き上げる活動は十年続いた。その間、一週も休むことはなかった。土曜日は正月にも、ゴールデンウィークにも、お盆にも、年末にもやってくる。「いかなるときも例外なし」という鍵山哲学の訓えに従って続けられた。十年間、五百十七週、休まなかった。信じられないことだが、六つの駅のうち中深川駅、上深川駅、狩留家駅は汲み取り便所だった。それでも厭わず磨き上げた。

 

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トイレが臭くて使えないという利用者の不満を解消した。きれいな場所は汚せない、十年の活動の成果は臭くない公衆トイレを実現した。JR西日本はこれらの活動を一顧だにしなかったが、利用者はきれいに使うことで活動に応えた。それを見届けて新しい活動の場を、地域内八ヶ所の公園トイレに求めた。平成二十七年一月三日土曜日、メンバーはスタートして満十六年、連続八百三十五週の記念すべきトイレ磨きを終え熱いお茶で乾杯した。

人生を楽しむ秘訣は〝自分磨き〟 ~三島清一さんの思い~

 

平成十七年一月一日土曜日、この日も雪が降った。芸備線中深川駅の駅前広場は銀世界になった。三島清一さん(84)は「地域を美しくする会」の仲間に加わった。あの日から十年、先哲は「十年偉大なり」と称える。トイレ磨きのような地味な活動がスポットライトを浴びることはない。ところがNТТ電友会はOB社員の功績を称え、全国のボランティア活動の表彰対象とした。三島さんの栄誉は、掃除仲間の誇りとなる。世の評価を得るために活動している訳ではないが、一人でも多くの人が活動の価値を認めてくれると励みになる。

 

表彰状には『あなたは長きにわたり駅や公園のトイレ磨き活動と地元の小中学生に〝トイレ磨き〟の指導を通じて青少年の健全育成に尽力されました。その功績はまことに顕著でありますのでここに表彰します』地味な活動が認めらけて嬉しい。

 

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三島さんの参加で内輪の活動が社会へ展開した記念すべき日である。鍵山さんの活動が一人→二人→社内→社外→国内→世界へ広がったように、あるティッピングポイントを乗り超えると「いいもの」は飛躍的に広がってゆく。三島さんは「地域の役に立ちながら自分を磨くことも出来る。こんないいことはありません。掃除の前にはみんなで『掃除五訓』を唱和します。唱和するうちにこの通りになってきたという実感があります」と明るく話す。

 

■掃除五訓

 一、謙虚な人になれる

 二、気づく人になれる

 三、感動の心を育む

 四、感謝の心が芽生える

 五、心を磨く

 

高齢者の平見さん、田畑さん、椋田さん、東田さんも熱き掃除仲間

 

平見孝志さん(70)は定年後の平成十七年、地元のマルコシに再就職した。初年度から清掃活動に参加した。汲み取り式のトイレは中が丸見えで、鼻をつまんで磨いた。「正直、三回目まではきつかった」というが、それ以降は気にならなくなったと言う。定年後の第二の人生は、外へ外へ。仕事、奉仕活動、趣味の絶妙なバランスが生活のメリハリに。平見さんも「十年偉大なり」の仲間入り。

 

椋田克生さん(69)は平成二十一年の公園清掃から参加。「汚れていればいるほどきれいになるプロセスが面白い。掃除は成果がすぐに出て分かりやすい。それが魅力です」。夢は花咲かじいさんになって、地域を美しい花でいっぱいにすること。

 

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田畑栄造さん(71)地元の金融機関を定年退職。それまでは朝から晩まで椅子に座り詰めの生活。その反動からか無性に躰を動かしたくなり、五年七ヵ月で日本の百名山を登頂。「些細なことでも社会の役に立ちたい。掃除は人に喜んでもらうばかりではない。自分の気持ちも温かくなる」。百歳までぴんぴんを目指す。

 

東田光夫さん(70)は活動の場を移した平成二十一年から参加。定例日は休みだが掃除だけは参加する。「寒い冬の日はやりがいがありますね。便器を磨くとき指先の感覚がなくなるときがあります。開始は午前七時ですが、なるべく早く参加して草取りなどしています。これからも体調の許す限り参加します」。

 

ムック「souji」がインターネットにデビュー

 

季刊「ジャパニスト」を始めたくさんの雑誌や本を発行しているフーガブックスの高久多美男編集長が、「地域を美しくする会」設立十五周年を記念してムック「souji」を発売した。A4版80㌻の上質誌で活動の軌跡を余すところなく描き、アマゾンより好評発売中である。メインは鍵山秀三郎さんとの十六ページに及ぶ対談であるが、掃除の真髄を余すところなく語っている。

 

他に「ひたすらまちを美しく」をテーマにした、➀朝を美しく、②通学路を美しく、③公園を美しくの活動日誌を始め、「夢拾いウォーク」の実践、子どもたちの学校トイレ磨きや感想文などが掲載されている。グラビアページには、高齢者たちの生き生きした活動の表情が微笑ましく人気を呼んでいる。

 

『掃除をした分、周りがきれいになり、自分の心も磨かれ、人と人とが結びつく。掃除は社会を良くする特効薬のようだ』

 

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