No.19 ~子供らとの嬉しいご縁で人生の幅も広がる~
「出会い」が人生を変える
出逢い いつどこでだれとだれが みつを |
そのときの出逢いが そのときの みつを |
詩人で書家の相田みつをさんは、「私は在家の一仏教信徒に過ぎません。私の書くものの根底はすべて仏法です」と、自己紹介しておられる。
相田さんの作品は人々に親しまれており、その一つ一つを深く味わい、影響を受けた人は少なくない。
古稀に至って、人との出会い、書との出会い、自然との出会いなどが、己自身の人生を根底から変えている不思議に、ようやく気付いた故か。
ご縁あって本誌に、《出会いに学ぶ生き方の極意》を連載し始めてから、一層その思いを強くしている。
生涯の師と仰いでいる鍵山秀三郎さん(日本を美しくする会創設者)が既に40年も実成されてきた(トイレ磨き活動)に感動・共感。各地の『掃除に学ぶ会』に参加する傍ら、地元の学校にも働き掛けていった。
鍵山さんの著書を持参し、トイレ磨き活動の実践例や子供の教育に及ぼす効果を伝えながら、「ぜひ学校で共にトイレ磨きを…」と、お願いして回った。地元には13校もの小・中学校がある。足繁く通って力説したのだが、実現には至らない。
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相田みつをさんの詩書 |
子供らの来訪・訴えで現状打破
熱意が足りないせいもあるだろう。伝え方が稚拙なのかもしれない。学校側にも、それなりに実施出来ない事情があるのだろう。三年も過ぎた頃には、諦めの心境になっていた。
平成13年1月中旬、広島市立落合小学校の6年生7名が「総合的な学習」の一環として、環境問題に対する企業の取り組みについてインタビューするため当社を訪問した。
あらかじめ、質問事項は用意していたようだが、建築廃材、地域のゴミ処理、汚れた川、家庭の生ゴミ、タバコの吸い殻のポイ捨て、行政の姿勢など、矢継ぎ早の問い掛け…。
たじたじとなりながらも、子供たちの熱心さに圧倒され、経営者としての考え方、会社の行動基準・日々の実践を分かりやすく説明した。
時間が経つに従い、子供と大人の垣根が取り除かれ、両方とも真剣な話し合いに進展する。そうこうするうち本題から少し外れたが、当社の地域活動の一つ「JR無人駅のトイレ磨き」に話題が及んできて、彼らは強い興味と関心を示し始めた。
「学校のトイレは汚れていて臭いもきつい。自分たちがピカピカにして卒業したい。ぜひトイレ磨きを指導して…」と、目を輝かせながらの訴え。夢ではないのかと耳を疑った。
予想もしない経過で、困難を極めていた試みがようやく実現する…?
名の願いが卒業生全員に拡大
実はこれまでも幾つかの学校で、何度かトイレ磨きの動きがあった。だが、その都度、学校の都合やPTAなどの思惑で実現しなかった。
しかし、この時は子供たちの強い願いを、担任の宮本修教諭らがしっかり受け止めてくださった。幸いにも福本洋雄校長をはじめ他の先生方の強力なバックアップもあって、外野席の雑音を封じ込め得た。
当初は7名で取り組む予定が、やがてクラス全40名になり、とうとう卒業する全員80余名に広がった。そして、同年3月13日に実施。
子供たちのトイレ掃除は、それが初経験ではない。全校清掃の時間に当番になれば、マスク、ゴム手袋、長靴の重装備で、水を流しながら棒ずりで擦る程度の作業はしていた。
ところが、素手素足のままで、さまざまな用具を駆使して、便器の奥底まで磨き上げる模範を見せると、子供たちは唖然とした表情…。
その戸惑ったような顔々は、今も鮮やかに脳裏に刻み込まれている。
男子便器の水漉(みずこ)しを外して、長年にわたって黄色くこびりついた尿石まで取り除けば、たちまちトイレ特有の嫌な臭いは消え去ってしまう。
子供たちは最初、困惑し尻込みしたり、もしかしたら嫌だったろう。しかし、手掛けた便器が輝きを増すにつれて、夢中になって打ち込み始めた。手袋を外し、長靴も脱いだ。
間もなく、そんな心の動きを、子供たちは驚くほど素直に表現し、感想文集にまとめ、届けてくれた。
読み進むうちに、あまりにも純真で無垢な子供たちの心・姿を知って、私は感動で涙が止まらなくなる。
これは、ぜひ印刷して記録に残しておこう。彼らが成長して将来、小学校六年時代の感想文を読んだら、きっと何かを感じ取ってくれるに違いない━と、本作りを思い立った。

緊張?不安?卒業記念トイレ磨きの開会式

「卒業記念トイレ磨き」
の感想文集
「卒業記念トイレ磨き」の先駆け
早速、制作・製本に取り掛かり、B6判・百ページの小冊子として仕上がった。内容はトイレ磨きに参加した全員の感想文、掃除に励む姿を写したグラビア写真、班ごとの記念撮影、教師のコメントなどで構成した。
鍵山さんは「落合小学校卒業生の皆さんへ」と題して序文を書いてくださった。その中で「6年間にわたって学んだ校舎への感謝を込めて、お世話になったトイレを自分たちの手で磨き上げたお心に頭が下がります。皆さんの行いは、今期6年生になった後輩はもちろんのこど、今年入学んた1年生にとっても、素晴らしい伝統となっていくことを確信します」と、高く評価、称賛された。
タイトルはずばり『卒業記念トイレ磨き・感想文集』として、初版は5000部だけ発行し、関係者に配った。
ところが、なんと5000部がわずか1カ月間で全国各地に掃除仲間の手で届けられていくではないか…。
しかも、この感想文集は思いもしない波紋と効果を巻き起こす。全国の小・中学校に広がる「卒業記念トイレ磨き」の先駆けとなったのだ。
平成19年3月7日、
落合小で第7回「卒業記念トイレ磨き
」が行われた。あの時に新入学した一年生が、先輩たちと同じ道を歩き体験して卒業。鍵山さんの確信通り、同校の新しい伝統として見事に根付いている。
6年間お世話になったトイレを、ピカピカにして卒業していく子供らの姿を見送りながら、相田さんの詩「出逢い」の重さを再実感している。
6年前の子供たちとの出会いは、まさに「よき出逢い」であった