超高齢化社会の「生きがい」チャレンジ

②お金と時間と智恵を注ぐ、溢れるパワーと広い心

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第十期が賑やかにスタート

平成25年4月7日、第10期の親子農業体験塾「志路・竹の子学園」は、塾生24名に、家族46名を加え総勢70名でスタートした。今期は新入塾生のち びっ子が11名と多く、例年とは違う華やいだ雰囲気に包まれた。11月の終了式までの8ヶ月間、多彩なプログラムに導かれ、自然体験、農業体験を楽しむ。 この活動を支えてくれたのは、安佐北区白木町志路の限界集落で農業に従事するナイスシニアたち。

子どもたちが躍動する自然の舞台は約5000坪(16,500㎡)の広さ。稲作の田んぼ、野菜作りの畑、小さな運動場、桜並木の遊歩道、自然公園、憩いの ためのあずまや3棟、キッチン棟、トイレ、駐車場など完備している。開設当初の舞台は休耕田700坪(2,300㎡)のみであったが、シニアの頑張りで田 んぼと畑に再生してもらった。その後、駐車場用地など600坪(1,980㎡)を購入したが、その他の3700坪(12,100㎡)の用地はすべて無償で 提供された。

提供者はふるさとの先輩である佐伯成人さん(81)。親子農業体験塾開設の思いを佐伯さんはニコニコ顔で聞いてくれた。そのときはこれだけの広大な用地を 無償で、しかも整備した上でプレゼントされるとは夢にも思っていなかった。そのときの現況は竹薮を主とした里山に過ぎなかったから、子どもたちの舞台に変 貌すると考える根拠もない。

 

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「竹薮」が「竹林」に大変身

親子農業体験塾の計画は平成14年から進め、翌15年にスタートする予定だった。ところが好事魔多し、準備中に胃がんに侵され心ならずも開設を1年延期す る羽目になった。運がないと嘆いたが、この不運が驚くべき幸運を運んでくれた。佐伯さんは定年後、のんびりと農業に従事する典型的な「金持ち」「智恵持 ち」「時間持ち」の年金で暮らすシニアである。堺屋太一著【高齢者大好機】によると、日本の高齢化社会は、これらの能力を兼ね備えるシニアによって支えら れると定義付ける。

誤解を招いてはいけないので若干の解説を加える。「金持ち」とは無報酬で地域のために働いても生活に困らない人、「智恵持ち」とは豊かな人生経験で貯えた 知恵を、世のため、人のために提供できる人、「時間持ち」とは他の人のために使える時間を持つ人―という意味だ。そして積極的に地域社会と関わり、シニア が持っている能力を人のために捧げるべきではないかと提唱する。理屈はそうだが、それほど人の心はシンプルではない。己を空しゅうして他のために尽くすこ となど容易でない。

佐伯さんの一念発起の心的プロセスは分からないが、開設が1年延期になったおかげで「竹薮」は見事「竹林」に大変身した。晴雨を問わず未明から竹薮との格 闘が続いた。まさにシニアの本領発揮である。もしも病に倒れなかったとしたら、幸運は素通りし振り向いてくれなかったかもしれない。

 

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自由に使っていいよ

自分の身体と時間を使って人を喜ばせる行いをすることが、天から人間に与えられた役割だと、わが生涯の師と仰ぐ鍵山秀三郎さん(イエローハット創業者)は 教えられる。その通りだと思うしそうしたいが、誰もが持っている人間の性(さが)が大きく立ちはだかる。自分のことはさておいて、いつも人のことを優先す る人が多ければ、世の中はもっと穏やかな日々になる。

ところが佐伯さんは違った。自分のことはそっちのけにして、子どもたちのための舞台作りに没頭した。もちろん家族やお隣の佐伯孝信さん(70)の協力が支 えになった。何しろ自然の大地が相手である。木立を伐採して道路を作る。平坦ではないから瓢箪のように曲がりくねる。2㌧車が通れる道幅が必要だから重機 も動かす。竹薮で子どもが遊んでも怪我をしないように、危険な切り株は掘り起こす。キャッチボールが出来る程度の広場も必要だ。下に転落しないように安全 柵を設ける。楽しい集いをするために「あずまや」を3棟も建てた。散策が楽しめるようにサクラやサルスベリ、それにサツキなども歩道脇に植えた。食事作り にキッチンも必要だ。

どれだけの費用と時間が必要だったか、想像もつかない。病が癒えて現地を訪れたとき、余りの変わりようにビックリ仰天した。費用の負担を申し出たとき、 「どうせ閑な身分だし、年金の使い道を遊びから開墾に変えただけだ」と笑い飛ばし、「すべて『竹の子学園』で自由に使っていいよ」。なんとも広い心だ。

 

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十年の功績に報いる道を模索

「人生に回り道なし。今を懸命に生きるのみ」、佐伯さんの口癖だ。損得を超えたところに身を置くと、人はかくも潔くなるものか。費用の負担を申し出ても「気にするな」とあっさり却下。足を向けて眠れない。

わが国の60歳を超える人たちは3000万人に達し、全人口に占める割合も間もなく25%になる。そのうち80%は健常者である。そのパワーを国や地域の ために活かせる道はないものかと考える。「竹の子学園」を支えているシニアは、損得勘定では動かない。①子どもの教育、②高齢者の生き甲斐、③過疎の活性 化、④都市と農村の交流などの目的に賛同して立ち上がってくれた。もちろん無報酬である。行政の助成金は遠慮し、自主・自立の運営をしている。

「竹の子学園」も発足して10年が過ぎた。運営を支援するシニアたちも超高齢化し、農作業が困難な年齢になった。何を以って功績に報いたらよいか、真剣に考えている。

 

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