親子農業体験塾『志路・竹の子学園物語』

⑧小さな善意が、新たな絆をつくる

過疎集落の再生ヒントが中国山脈越えウォーキングで閃く

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かねてからの念願が叶って『中国山脈越え一〇〇キロウォーキング』(コガワ計画・Mランド主催)に年甲斐もなく参加した。決意した日から四十日間、七十四歳に相応しいトレーニングを計画通りにこなした。六月十一日、広島県安芸太田町戸河内を基点に、島根県境の深入山入り口までの二〇キロを目標にした。親子農業体験塾「竹の子学園・六月塾」の朝礼で参加を公表し、後へ引けない状態に自ら追い込んだ。大人は誤魔化せても、塾生に言い訳は通用しない。それなりの覚悟はした。

一五〇名参加のうち最高齢だったが、トレーニングの成果なのか、二〇キロを四時間ノンストップで歩いた。相当の力を余してのリタイア宣言になった。結果論であるが当初から目標を四〇キロに置いていたら、キチンと歩けたと思う。それほどに耐久レースは、精神力がモノを言う。

一〇キロ地点で小河二郎・コガワ計画会長の出迎えを受け、約一キロも一緒に歩かせてもらった。小河さんは八十八歳、七十四歳と合わせれば百六十二歳。梅雨の晴れ間の日差しを受けながら、ゆっくりおしゃべりしながら歩いた。気を使う場面もあったが、米寿を超えた人とは思えないたしかな足取りに驚いた。滅多にできないフリートーキングの時間をいただき、まずは感謝。時には足を止めて話は弾んだ。

中国山脈道沿いには、軒が腐食して垂れ下がった農家の空き家が多い。過疎の集落には廃校になった小学校、使われなくなった公民館など大きな建物もある。道路も広い。今でも悪評高いばら撒き補助金の名残である。

小河さんは顔を合わせると、アイデアを出せと言われる。しかし、八十八歳の翁を驚かせる知恵が生まれないのは若造として悔しい。ウォーキングの雑談として「合宿制の小学校」の提案をした。「竹の子学園」でホームスティをしながら、閃いた現代の寺小屋制度である。既存の施設を生かすとすれば、六学年十二学級は難しくない。もちろん教師も寮生活。保護者は働く場所で暮らし、週末に往来すればよかろう。小河さんは大賛成!

多彩なカリキュラムが自然体験・農業体験を教育に変える

メディアで伝えられる子どもたちの農業体験は、イベントとしては楽しいし思い出にも残る。田植え、芋掘り、稲刈りなどは、すべて農家が準備し、子どもたちはお客様として参加する。こうした機会が単純な一日リクリェーションで終わるのは勿体ない。

竹の子学園では、四月の開塾から七月まで稲をはじめ十五種類の野菜などの種まき、苗植えを行い、夏から秋に掛けて収穫を楽しむ。さらに春にはツクシ、ワラビ、フキ、タケノコなど、自然からのプレゼントにビックリする。二十五名の塾生は六年生をリーダーとして、原則として三チームで活動する。保護者は別に用意したカリキュラムに従う。月に一度ではあるが、種まきから収穫までのプロセスは、こどもの思考回路を柔軟に変えていく。リクリェーションでは得られない成果がある。

昨年の「父の日」に計画した魚釣りは魚の姿が見えず、急遽、竹細工に切り替えた。しかし、魚釣りに対する子どもたちの思いは強く、今年は川に対する細工をしてチャレンジした。細工とは、用水路の排水位置の変更である。田んぼの水を川に流さなければ、魚は復活する。

小振りではあるが、すいすい泳ぐ魚の姿が見える。竹を切って炭火で脂抜きをしながら釣竿を作る、木綿糸にウキと針をつける。湿気のある畑で餌にするミミズを取る。すべて「父の日」における父と子の共同作業であり、途方もない手数が掛かる。しかし、その分だけ、都会では求められない、新しい父と子の関係が築き上げられる。

膝小僧に血を滲ませたり、腕を虫に刺されて赤く腫らした子どももいたが、我慢のお陰で首尾は上々、至るところで歓声がこだましていた。大漁だった。そのことより子どもらは、父と一緒に過ごした時間を喜んだ。生き生きした宿題の作文と絵が、その事実を物語っている。

サプライズを生んだ先輩ママの思いやり

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五月塾の「母の日」は、お手紙を書いてカーネーションを添えて、ママにプレゼントした。六月塾の「父の日」は、父と子が川魚を釣って楽しんだ。

だが、取り残されたママたちは、そのとき何をして過ごせばよいか。工夫をしているが、残念ながら拍手をいただくまでには至らない。毎年「二世代ママの交流会」と銘打っているが、形式が先に立って満足はいただけない。現実には共通の話題が乏しく、生きてきた時代背景も異なる。したがって他愛ない話が先行し、雰囲気がばらばらになるケースが多い。

今年は違った。〈つくしクラブ〉の佐伯菊枝さんは、かねてから話だけでは心に残らない、何とかしなければと考えていた。そこで力を合わせて作業、しかも魚釣りを終えた父と子が喜ぶ食べ物。「柏餅作り」に辿りついた。どこにでもある平凡な食べ物だけに、サプライズの演出が必要だ。そのために誰にも話さず、へそくりを出して材料を揃え、当日に備えた。餅の生地に米の粉、餡子、柏の葉っぱが必要。それに蒸し器とガスコロ。

父と子が魚釣りに出発した後、佐伯さんが満を持して発表。若いママたちは大歓声で拍手。米粉を練って生地を作る、餡子を入れて団子にする、柏の葉をつけて蒸し器に入れる。極めて単純な作業であるが、誰にでも出来、しかも経験がないことは大歓迎されると分かった。

漬け物なども悪くはないが、すぐ食べられない。父と子が手づくりの釣具で楽しむ。留守番役の母は先輩ママの善意のアイデアで帰りを待つ。メインの会話はお得意の手八丁口八丁、柏餅作りと同時進行で賑やかに進んだ。父と子が魚釣りを終えて戻ってきた。テーブルに並べられた八〇個の柏餅を発見し、おもむろにママたちの顔を見て拍手!

一つの善意が新しい親子の世界を広げてくれる。論語の朗誦で締め括った「竹の子学園・六月塾」は、第八期前半のハイライトになった。害獣は増え続け、天候は不順でそれぞれ農作物に悪影響を及ぼしているが、それを乗り越えて成果を上げ続けたい。