親子農業体験塾『志路・竹の子学園物語』

⑦子どもたちの豊かな未来を育てる試み-志路・竹の子学園のこれからー

動物たちから人間への警告

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親子農業体験塾「志路・竹の子学園」の拠点となる集落では、イノシシに代わってシカとサルが跳梁跋扈している。サルは群れをなして人影のない農家の納屋に侵入し、貯蔵してある野菜や米を漁る。軒下にぶら下がっている干し柿やタマネギは、あっという間に食べつくした。高い木の枝に抱きつき、常に農家の周辺を観察している。

今年の冬の寒さは厳しく、里山には食べ物はない。止むを得ず生きるためには人間の領域に入らざるを得ない。爆竹や花火などには慣れっこになり、驚きはしない。サルたちは家族だけではなく一族で移動する。もはや高齢者たちでは太刀打ちできず、そのパワーはなんとも凄まじい。


さらにシカが急増した。もともと若芽が主食だから、春先から初夏にかけて出没していた。ところが今冬は猛暑と酷寒のダブルパンチで生存領域に食べ物がなくなり、仕方なく農作物で飢えを凌ぐようになった。夜行性だから深夜になると、群れをなして徘徊をする。闇の中に青白い炎のような数十個の目玉は幻想的だが、身の気がよだつような恐怖を覚える。シカの頭数増と棲息領域の拡大の理由はいろいろだが、 ①積雪の減少(冬に死ぬ個体が減る)、②高齢化による狩猟者の減少、③耕作放棄地の増加によるエサ場の拡大などが上げられる。

山裾にネットを張り巡らし、田畑の周辺に電気柵を設けたが一時的な効果しかない。今年は農園にダイコン約二百本、白ネギを数百株も越年させたが、積雪の上に青い葉っぱを見つけ柵を超えて侵入した。これまで青い葉っぱを食べられた経験はあるが、根こそぎやられたことはない。とんど祭りで塾生たちと収穫する予定だったが、予想外の事態になった。この一年で五十頭ものシカを檻や罠で捕獲したが、猟師不足で処分に至らず死体を放置したままのシカも少なくない。大げさなようだが、まさに人間と獣の戦争である。

「一灯を掲げる」

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山田宏著『日本よい国』構想には、すとんと腑に落ちる考え方が満載されている。第三章「誇るべき国、ニッポン」の歴史をひも解きながら、日本の核とは何かに言及している。代表的な核として①「家を大切にし、先祖を敬う心」、②「自然を畏敬し、農を大切にする心」、③「清き、明き、正しき、直き心」。どうやって日本人らしい生き方を取り戻すか。その問いに対して「心あるものが灯火を、一灯を掲げるより他に道はない」と答えている。迂遠な話のようだが、それしかないとすれば実践しかなかろう。
     

第五章「『豊かで、楽しく、力強い国』となるために」。この章では、教育はすべての子どもの天分を伸ばすためにある。そのためには、

①「個人の天分や学力を伸ばす教育」

②「人間性を育む教育」

③「日本人としての教育」

が三本柱と説いている。残念ながら日本の教育は、国旗や国家を否定するリーダーに引き摺られて、あるべき姿に背を向けている。心あるものはいるのか、一灯を掲げるものが何処にいるのか、「唱道の人多けれど、行道の人少なし」が残念ながら現実である。

親子農業体験塾「志路・竹の子学園」は、心あるものが一灯を掲げたささやかな実践である。学園名の「志路(しじ)」は、毛利元就の家老・志路元良の領地として地名が残った。勝手に「志の路」と解釈している。


平成二十三年四月三日に、二十五名(小学一〜六年生)の塾生と第八期のスタートをした。保護者、世話役、運営委員を加えれば七十名を超える。地元の小学校は全校生徒が八名だから、月に一度だが過疎集落としては大歓迎だ。
        

五千坪を超える学園の舞台、七百五十坪の耕作地の管理は容易ではないが、おんぶに抱っこの状態で甘えている。スタートしたときは世話役たちも、七十歳になったばかりだったが、今年は八十歳の大台を超える。金銭的見返りのない学園活動の後継者は、今のところ見つかっていない。


地域にとって必要であれば、心ある人が現れて志を継いでくれる。今のところ良寛さん流の「なんとかなる」。

現代の「寺小屋」として前へ進む

今期から新しいカリキュラムとして「論語の朗誦」を取り入れた。教育再生会議の答申にも「子どもたちに、古典や偉人伝などの読書、民話や神話・おとぎ話、童謡、茶道・華道・書道・武道を通じて、徳目や礼儀作法、形式美・様式美を身に付けさせる」とある。あたかも江戸時代の「寺小屋」復活を求めているようだ。主に「読み・書き・算盤」だが、「読み」は「論語」の素読である。
     

ブームにあやかった訳ではないが、古典中の古典「論語」の素読により、脳のトレーニングと倫理観を、潜在的に植えつけたいと願っている。人間力の基礎としての国語力も身につく。もっとも倫理観などを学ばなければならないのは、子どもたちより大人が先だとは思うが…。


竹の子学園の行動指針は「時を守る」「礼を正す」「場を清める」(森信三訓)と決めている。また朝礼では「十のお約束」を唱和。

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一 素直な子どもになります。

二 我慢できる子どもになります。

三 良い習慣のある子どもになります。

四 社会の約束を守る子どもになります。

五 自身のある子どもになります。

六 甘えのない子どもになります。

七 自分で考える子どもになります。

八 やる気のある子どもになります。

九 やさしい子どもになります。

十 頑張れる子どもになります。

時には「子ども」を「親」に読み替えて、保護者が子どもに約束をする。お互いに微苦笑がもれるが、ほのぼのとした空気も通い合う。とても穏やかな朝礼になる。


まだ来ぬ先を案じても仕方がないので、ともかく親子農業体験塾「志路・竹の子学園」は永遠に続くと信じて取り組んでいる。とりあえず二年後の十周年を目指す。運営の三原則「労力の無償提供」、「公費の金銭的助成は受けない」、「必要経費は塾生家族の負担」は守り続ける。自主・自立・絆で「真の日本流豊かさ(山田宏)」を求めたい。