親子農業体験塾『志路・竹の子学園物語』

⑥自然体験・農業体験で子どもの学力が向上する

自然体験・農業体験で子どもの学力が向上する

異常な猛暑に野菜たちは壊滅状態で子どもらをがっかりさせた。農園の収穫物を丸かじりする味を覚えてから、自分たちが育てた野菜の生育を楽しみにしている。生のピーマンは甘い。炒めた食卓のピーマンを残しても、太陽のもとでは違うらしい。ところがサツマイモは堅くて歯が立たなかったようだ。水気がないから、ぱさぱさで味もない。「去年はあんなにおいしかったのに…」とブーイングが出る。太陽と水と土と、野菜の微妙な関係を体験で知ることができる。


九月塾でダイコンのタネを蒔き、ハクサイの苗を植えた。時季としては少し早いが十一月塾の終了式で収穫するためには、多少の無理は仕方がない。幸い猛暑の連続が病害虫の発生を防いでくれた。その上、適度の雨にも恵まれた。太陽と水は野菜を元気にしてくれる。生育が早く十月塾では稲刈りの後、間引き作業を行った。栄養分を集中されるために欠かせない作業だ。収穫した小さなダイコンは甘みがやや乏しく、子どもらの期待に添えない。農家では大半を捨てる。


しかし、塾では丹精の野菜だから、粗末にしないことを教える。小さなダイコンは瑞々しく柔らかい葉っぱをつけている。それぞれ自宅で一夜漬けにしたり、小さく刻んで油揚げや鶏肉と炒める。世話役たちが調理の方法を塾生親子にていねいに教える。自分たちがタネを蒔いて自然の恵みで収穫した野菜を、わが家の食卓でいただく。その日の夕食は格別の味わいがあるのではなかろうか。


四月の入塾から十一月の卒塾まで、毎回タネを蒔き苗を植え、育てて収穫する。新鮮な食材を食卓で味わう。その習慣の積み重ねは食に対する考え方を根底から変えるだろう。十一月塾ではダイコンが直径十センチ、長さ五十センチにまで成長した。塾生たちは農園の水路で水洗いし、両手に抱えてかじりついた。「甘い!」と口々に喜びを口にした。

都会では見ることができない光景だ。子どもたちは、自然体験・農業体験を通じて自然の偉大さと、親の愛を実感できる。

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低下に歯止めが掛からない子どもの学力

経済協力機構(OECD)は、六十五の国・地域の十五歳男女、計四十七万人を対象に二〇〇九年に実施した国際学力調査(PISA)の結果を世界同時に発表した。日本は第一回の二〇〇〇年にこそ上位にランクされたが、前々回〇三年、前回〇六年と順位を下げ問題になった。今回「読解力」が十五位から八位に、「数学的応用力」が十位から九位に、「科学的応用力」が六位から五位と下げ止まりした。高木文部科学相は発表を受け、「読解力を中心にわが国の生徒の学力は改善傾向にある」と表明したが、果たしてそうか。「社会生活を営む上で支障があるレベル」とされる低学力層が、日本は一割を超えており、上位十ヶ国・地域の中では目立って高い。


生徒へのアンケートから小説・新聞をよく読む生徒は、読まない生徒より極めて読解力が高いことを示している。国際社会では情報分析力や論理的思考力が求められるが、情報や知識を経験と関連付けて解くことが、苦手と分かった。記述式問題の無回答率も高い。

 読解力はすべての学力の基礎といえる。来春から主な教科の授業時間が一割程度増えるが、知識の詰め込みだけではなく子どもの意欲や興味を引き出す知恵が求められる。調査の結果から見ると、授業時間の長さは必ずしも成績と結び付いていない。読書の頻度が増してもストーリーを追うだけでは、分析的な読みはできない。「本好き」と「読書力」は根本的に違う。情緒性なども大切にした日本独自の読解力の教育体系が望まれる。


PISAの調査は学んだ知識を実生活に生かす力を見るのが目的だが、残念ながら現在の家庭や地域の環境は、その機会が限られている。その意味でも農林水産省や文科省が進めていた「こども農山漁村宿泊体験プロジェクト」が、民主党内閣の仕分けでカットされたのは残念でならない。「学力」よりも「学び取る力」を養う仕組みが大切なのは言うまでもないが、子どもの能力を発揮させる大切な機会を失ってしまった。「子ども手当」などのばら撒き政策は百害あって一利もない。

三世代の交流は子育てに欠かせない

親子農業体験塾「志路・竹の子学園」の十一月塾は、卒塾式と終了式を兼ねる。入塾の資格は幼稚園の年長組から六年生まで。七期は前期に続いて、六年間在籍の塾生が巣立った。プレオープンから含めると六年間在籍の卒塾生は七名を数える。うち五名が難関の私立中学校へ進学した。私学を礼賛するわけではないが自然体験・農業体験が、子どもらの学び取る力を向上させ、結果として学力に結びついた事実を誇りに思っている。

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わずか月に一回の開催だが、休日に親子が市内から一時間以上もかかる過疎集落に、六年間も通うことは並大抵ではない。しかも、手作りのおにぎり弁当や飲み物、それに農作業に必要な衣服も義務付けられている。もちろん応分の参加費も負担しなければならない。子どものためになるなら、時間も費用も惜しまない親の愛があればこその行いだ。


一流の職人を育てるために、丁稚制度を導入している秋山利輝さん(横浜市・秋山木工社長)は、職人育てには①丁稚本人のひたむきさ、②親や恩師の愛、③会社の真摯さが欠かせないという。同じように子どもの教育は、親の愛、学校の環境、地域の関心度が一体となってこそ成り立つ。どのように制度をいじったところで、何よりも自分の時間を大切にする親、自分さえよければの地域社会、安全運転第一の学校環境を改めなければ、世界に羽ばたく子どもは育てられない。


十一月七日、卒塾式は二十七名の塾生、六名の入塾希望者、保護者、地域の世話役など七十名の参加で開かれた。昼食会はチーム別に子、親、世話役の三世代が一体に溶け合って、晴れ渡った秋空に歓声をこだまさせた。子どもは自然と親しみながら、遺憾なく好奇心を発揮し、親は世代間の交流に目を細めて心を和ませ、世話役は過疎の賑わいに生き甲斐を感じながら時を過ごした。

絆が失われつつあるいまの社会では、味わえない素朴な世界だ。生意気なようだが、親子農業体験塾の存在は、子どもらの未来に欠かせない子育てのモデルだと信じている。