親子農業体験塾『志路・竹の子学園物語』

⑤猛暑が運んでくれた大きなチャンス

猛暑が運んでくれた大きなチャンス

親子農業体験塾では夏休みのホームステイをカリキュラムに組み込んでいるが、天候次第で学習の成果と塾生らの満足度が変わる。

今年の広島地方は猛暑日が七十三日もあり、そのうち五十二日間は雨が一滴も降らず川の流れが変わった。

水源の水が枯渇し濁り水が清水になった。例年、七月は雨が多く過疎の小さな川は水が濁っている。こどもらが楽しみにしている川遊びは、

流れの速さと水の濁り具合を見て実施の判断をする。

広島市内の小学校では川遊びや遊泳、魚釣りなど禁止している。豊かな自然に恵まれながら、こどもらは貴重な体験の機会を失った。

もったいない話だが昨今は責任回避の風潮があらわな時代だから、管理者がリスクを避ける風潮も理解できないではない。

しかし、こどもの健全な発達に自然体験は不可欠である。リスクから何でもかんでも逃げるのではなく、あえて挑戦する必要があると思う。

危ないからダメと禁止する前に、過保護な生活環境を見直したい。リスクに挑戦して失敗の痛みを知り、生きるための安全力を身に付けさせたいものだ。

猛暑にはうんざりしたが、天はプレゼントをくれた。水の流れを穏やかにして水量を適度に減らし、

川の底がはっきり見えるように透明度を与えてくれた。

たかが五十センチ程度の深さでしかないが、まさかのとき濁っていては対処が遅れる。

暑さでハチも姿を消した。もっとも危険なまむしも昼間は徘徊しない。管理するものには幸いにも安全な条件が整えられた。

こどもらは初めて体験する裸足の水遊びに夢中になった。滑って転んだら自分で起きる。難所は六年生のリーダーが小さいこどもの手をひいて守る。

幅八メートル、長さ五十メートル程度の川だが、短い時間に学校や塾では学べない多くの知恵を身に付けたと信じている。

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ジャパニスト⑦_copy

リスクから逃げないで果敢にチャレンジ

こどもらだけが参加するホームステイを企画するとき、多くのリスクについて検討を重ねた。幼稚園の年長組から小学六年生まで在籍する

塾生らの安全管理が可能か。ホームシック、突発的な病気、ヘビやハチなどが引き起こす事故、おねしょまで考えれば気が遠くなる。

しかし、よく考えれば同じ危険でもリスクはあるがハザードではない。

リスクへのチャレンジは、こどもにとっては最もおもしろい遊びの価値であり、幼少期に欠かせない得難い体験である。

私たちはこどもの頃ずいぶん危ない目にあったし、たくさんの怪我もした。その経験が自らを守る安全力を与え、自主・自立の心も養ったように思う。

今年は二十七名の塾生が参加した。宿泊は四つのグループに分けるが、プログラムはすべて全員参加で進められる。

一日目の午後二時、親に連れられ大きなバッグを担いで会場に集まる。やがてこどもだけの世界が始まる。幸いにも泣いて親を追っ掛ける姿はない。

始礼、木工教室、夜食のための野菜収穫、調理、夕食、合唱、キャンプファイヤー、ゲーム、花火、清掃、岩風呂体験を経て

四戸の農家に分宿し初日を終える。新しい一日だけのじいちゃん、ばあちゃんと夜のひとときを楽しむ。午後十一時に巡回し、

まず玄関先の履物の揃い具合からチェックする。

二日目は午前五時半集合、日の出、ラジオ体操、清掃、食事の支度、朝食、親の昼食用おにぎりづくり、午前九時、終礼で

すべてのプログラムを終える。午前十時からは親子で参加する「竹の子学園・八月塾」がスタート。

木工教室、食事の調理では、全員が刃物を使う。指導はボランティアの主婦たち。家事の手伝いをしているこどもは切り傷には無縁だ。

はじめてのこどもは例外なくミスをする。それでも逃げないで果敢に挑戦する。おむすびを握るご飯は熱い。

この時、毎月の弁当に注がれる親の愛を感じるという。

東西南北を知らないこどもたち

午前五時四十分、東方の山の頂から太陽が昇り始める。幸い今年は霧が流れず真っ赤な日の出を拝むことができた。

太陽の大きさと天空に昇るスピードに驚きながら、ポンポンと可愛い拍手の音を響かせた。

驚いたことにすべてのこどもが、日の出を見たのは初めてという。夕日が沈む美しさも知らないという。東西南北も教わったのだろうが、

誰一人として自然の中では指差すことができない。知らなくても生きていくのに不自由はないが、今の教育はどこかおかしい。

ラジオ体操の影もびっくりするほど長い。体験は好奇心を覚醒させ、心の中をゆさぶる。

午前九時過ぎ親が姿を見せ始める。わずか一泊二日だから再会の感激はうかがえないが、こどもらの肩に安堵感が漂う。

八月塾の目玉はそうめん流し。世話役の指導を受けながら、父親たちは竹林で孟宗竹を切り出す。半割りにして節を取http://www.rcnt-support.jp/preview/marukoshi.jp/write/japanist/post-1.htmlり除く。

やがて、そうめんを流す樋ができ上がる。

母親はそうめんをゆがき、ネギなどの薬味を添え、つゆを作る。こどもたちはそうめんを入れる竹の器作りに余念がない。

世話役らに助けられながら、親子が一つの目的に向かって汗を流し、力を合わせる。冷たい水に乗ったそうめんと、わが子が握ったおむすびの味は、

お金では得られない。

最近すべてのこどもにデジタル教科書を与える学習環境が検討されているという。ケータイ、ゲーム、パソコンなどの電子機器で

親や友達と接する時間を奪うことは許されない。その結果、思いやりや感動などの大切な感性を育む機会を喪失するのではないか。

読み、書き、話す、そろばんはいつの時代でも欠かせない。かけがえのない人間形成期にこそ大人たちは、

もっと多くの時間をこどもに割いてほしいと願っている。