親子農業体験塾『志路・竹の子学園物語』

④五千坪を超える夢の舞台が整う

五千坪を超える夢の舞台が整う

あらためて、親子農業体験塾『志路・竹の子学園』を構成するステージを紹介したい。
  

学園は広島市安佐北区白木町志路字中ノ村に所在する。広島市の中心街から県道の高陽深川線を北へ約四十キロメートル、

のどかな過疎の農村集落が一体に広がる。 JRを利用すれば芸備線・井原市駅で下車、定期バス(一日二往復)の志屋行きに乗り換えると

約三十分で木ノ原口に至る。谷あいの素朴な盆地ながら政令指定都市の面影はない。

八年前に親子農業体験塾の構想を描いた当初は、郷里に所有する約七百五十坪の休耕田を活用するプランだった。

いまにして考えれば幸運の極みだったといえるが、胃がんに遭遇し全摘出手術を余儀なくされた。そのためスタートが一年遅れた。

この間、現地ではふるさとの先輩たちの好意で予想をはるかに超える準備が整いつつあった。前述の休耕田は、地味豊かな田畑に再生された。

塾の学び舎と地域の集会所を兼ねた建築用地として、約六百坪の土地が格安で提供された。

現地では排水溝などの整備を行い、いつでも工事に着手できる状態になっている。周辺は荒れ果てた竹藪に囲まれていたが、

三千八百坪の竹林公園として整えられた。山肌を削った遊歩道は八百メートルに及び、道沿いに二百本のサクラの苗木も植えられた。

今年で七期を迎えたが、この間に、素朴な四阿が三棟、キッチン棟、簡易トイレ、ポンプによる給水、四百坪のミニ運動場、炭焼き小屋、

手作りの自然公園まで整えられた。土地所有者の佐伯成人さん(79)は、こともなげに「自由に使っていいよ」 断っておくが労力も費用も、

見返りを求めない佐伯さんの無償提供である。一シニアの善意により思いもしなかった五千坪のステージが、大自然の中に整えられた。 

ジャパニスト6_copy

ジャパニスト6-2_copy

「金」「時間」「知恵」注ぐ広い心

広島県の北部に中国山脈を越える県道が整備されている。この道は「あじさい道路」と名付けられ、十五キロメートルものフラワーロードとして

ドライバーに親しまれていた。地域住民の力で見事に剪定され、初夏には色とりどりの花を咲かせていた。

とりわけ淡い紫色の花の群れは心を癒してくれた。十年ほど前から放置されはじめ、無残にも枯れた株に名残をとどめているに過ぎない。

財政難から行政の支援が打ち切られたからだ。一時は息を吹き返したかに見えた過疎対策も、金だけで結ばれていては再生できない。

ほんの一例にすぎないが、補助金を当てに立ち上げた地域活動の多くは根付かず大半が立ち枯れの運命にある。政治のばらまきは、

間違いなく住民の暮らしを疲弊させる。

親子農業体験塾を構想したとき同種の事例を見聞したが、補助金を頼りに立ち上げた活動の成功例は皆無だった。ところが自主自

立のシステムでスタートした地域活動は、大半が成功している。大きなポイントだ。

「竹の子学園」の現地管理を担ってくれているふるさとの先輩たちは、例外なく「金持ち」「時間持ち」「知恵持ち」である。

誤解されないように若干の解説をさせていただく。「金持ち」とは無報酬で地域のために働いても生活に困らない人、

「時間持ち」とは他人のために使える時間を持っている人、「知恵持ち」とは豊かな人生経験で蓄えた知恵を世・人のために提供できる人—の意味だ。

五千坪もの「竹の子学園」の管理は、並大抵ではない。心豊かな先輩たちによる労力の無償提供で成り立っている。

とかく損得で動く世の中だが、自主・自立の心に勝るものはない。リーダーの竹下員之さん夫妻、幹事役の佐伯智弘さん

、前述の佐伯成人さん夫妻、吉村博さん夫妻はいずれも昭和一桁生まれ、他に昭和二桁の佐伯孝信さん夫妻、

江畑郁生さんらの志に支えられ、七期目に入った。

田植えには晴れが似合う

「竹の子学園」は晴雨にかかわらず開塾と決めているが、田植えだけは晴れてほしいと願っている。昨年は雨に見舞われた。

色鮮やかな雨具は自然の緑には映えるが、泥んこになった後始末は簡単ではない。冷たい川の水で泥落としをし

身体を拭いて着替えるのは、風邪対策も必要で難渋する。

幸い今年は真夏日をプレゼントされた。午前中は田植え体験よりも、泥遊びにはしゃいでいた。午後はナス、トウモロコシ、

ゴーヤ、スイカ、ウリなどの植え付けに、疲れも見せず親子で取り組んだ。

五月塾では「母の日」にちなんで、ママを讃える「パパ講座」がある。周りを囲んだママたちの弥次の中で、滅多にない父と子の対話が

賑やかに進められる。一段落すると壁掛用の木板に、母に対する感謝のメッセージが描かれる。

はにかみながら大きな声で「お母さんありがとう」と手渡されると、子どものために優しい母親でありたいと誓うそうだ。

 六月塾では「父の日」の思い出として、父子の魚釣り大会を企画した。ところが、河川の改修や農薬使用の影響で、

童謡の「春の小川」は消えていた。急遽、竹とんぼ、水鉄砲や紙鉄砲、それに「マイ箸」づくりの竹細工に変更した。

昔取った杵柄で腕を振るう父親の姿に、子どもらは素直に感動した。「お父さんは凄い!」。

それは記念品に綴られた父に対する尊敬のメッセージで証明されている。

とかく農業体験や自然体験はレクリエーションとして扱われがちだが、「竹の子学園」のプログラムは違う。子どもの豊かな人格形成、

本来の親子関係の見直し、高齢者の生きがい、過疎の活性化、都市と農村の交流など、多くのテーマに挑戦している。

子どもたちにとって自然は偉大な教師であり、大人は子どもからの学びが無限にある。