No.8 ~人を育てる教材いっぱいの「自然」~
人を育てる教材いっぱいの「自然」
日の出も日没も見たことない?
「生まれてから一度も日の出、日没を見たことがない」と答えた小・中学生が過半数に上る―。川村学園大学・斎藤哲瑯教授(教育社会学)による自然体験調査で分かった。
調査は平成16年6月、関東や東北の小・中学生3288人を対象に実施。その結果、日の出や日の入りを見たことのない子供が、市部で52.6%、郡部でも45.9 %に及んだ。いずれも前回調査(平成12年)より該当者が増え、過去 最高となった。高齢者の仲間入りした私などには、思いもかけない調査結果に、驚くばかりだ。
ほかにも、▽自分の身長より高い木に登ったことがない▽海、川などで魚釣りをしたことがない▽木の実や野草などを採って食べたことがない▽わき水を飲んだことがない― 子供も50%前後を占め、思いがけない数字を示す。信じられない。
さらに、体験の貧弱さは自然の中だけにとどまらず、日常生活でも…。調査によると、自然体験が多い子供は、生活経験も豊かな上に「家にいるのが楽しい」「学校が楽しい」と 答える割合も高い傾向だ。多様な経験と生活の満足度には関連性が見られるという。斎藤教授は「親が自然の中に子供を引っ張り出さなければ、太陽の動きを追う経験さえもできない」と、強く危惧している。
自然との共存こそ欠かせない
人々は子供に限らず太古の時代から、自然の恩恵を享受しながら暮らしを営んできた。自然と共生する中で、豊かな人間性が養われ、心やさしい感性も磨かれてきたと思う。
ところが、文明の発達につれて暮らしは便利になったものの、次第に心のゆとりを失い、欲望のおもむくままに、多忙な日々を余儀なくされている。大人だけではなく、子供たちだって例外ではない。
朝早くから学校で学び、クラブ活動、宿題、塾に至るまで、日々のスケジュールはいっぱいだ。時間が余ればファミコンに熱中する。親は親で、子供以上に忙しい。結果として豊かな人間性を育む自然との共生から縁遠い暮らしになってしまう。
こうした無味乾燥的な日常は、最近多発する青少年らの惨たらしい犯罪とも無縁ではないだろう。
現代文明の発展過程を知らない子供たちは、お金さえ出せば、すべての物が手に入ると思ったとしても不思議ではない。米でも野菜でもスーパーに行けば並んでいる。姿を見せるまでには途方もない時間と労力を要したことなど、思いもつかない。
幸いにも、親子農業体験塾《志路・竹の子学園》で学ぶ子供らにとっては、自然の恩恵や、農作物の種蒔きから収穫までの過程を知るために、絶好の機会となったに違いない。
迷いに迷った卒塾式セレモニー
11月7日、初めての卒塾式だけに、企画立案がどうしても体裁を考え、カタチにとらわれてしまう。会場、来賓、式次第、行事、記念品など、検討するたび迷路に迷いこむ。悩み抜いた末、贅肉をすっかり落としたシンプルなスタイルに決まる。
会場は晴天を信じて手作りの《百日紅公園》。来賓なし。式次第はあってなきがごとし、雰囲気で自由に変える。行事は風呂哲州さん(シンガー・ソングライター)と中井征さん(岩国女子短大・講師)二人の友情出演による「童謡・唱歌」と「紙芝居」の二本立て。記念品は迷った挙げ句、塾生には実践教育の泰斗である森信三先生の高弟・寺田一清先生編「ものがたり・伝記シリーズ」、保護者には森信三先生の「修身教授録抄」を選んだ。
食事は、4月入塾以来、地元〈つくしクラブ〉の皆さんのご指導とご協力をいただきながら、親子らが丹精込めて慈しみ、汗を流して育てたお米や野菜で作られた自然食…。
午後の体験授業で、大根や白菜の収穫をした後、来年のためのタマネギと春キャベツの苗植え。これで、4月から始まった親子農業体験塾はすべてのカリキュラムを終えた。
親子らの絆がさらに強まる
セレモニーを締め括ったのは「寄せ書き」と、風呂さんのリードによる全員の大合唱。「寄せ書き」は、地域のJR駅でご用済みとなったごみ箱を再生して、親子全員が思い出を書き込んだ逸品だ。続いて塾生親子らと〈つくしクラブ〉の皆さんが腕を組み「今日の日はさようなら」を元気いっぱいに唱和…。その歌声が秋晴れの野山にこだました。
6年生は卒塾したが、5年生以下の子供と保護者らには、また4月に再び会える。プレゼントのお米や野菜を車に載せて現地を後にする親子らの笑顔と、手を振って別れを惜しむ集落の皆さんの涙が印象的。すべてが《志路・竹の子学園》の8ヵ月にわたる成果を如実に物語っている。