世相藪睨み

No.8 ~我が振る舞いを律する~

我が振る舞いを律する

講演会場での不作法に閉口

「講演中は、他のお客様の迷惑になりますので、携帯電話のスイッチをOFFにするか、マナーモードに切り替えてください」…。

最近、どこの講演会場でも主催者側から聴衆に、このような注意のアナウンスが絶えない。それだけ、携帯電話の普及と共に不心得者たちが増加しているようだ。

先日も、私自身が経験したことだが、あるセミナーで講演していたところ、突如としてテレビドラマ「水戸黄門」のテーマソングが流れてきた。続いて「もしもし」という無遠慮な男性の声。そして何やら話しながらドアの外へ。しばらくして、その人は、何事もなかったかのように着席した。その態度から推して、こんな行為はしょっちゅうらしい。

講演などに慣れていない私は、一瞬にして話すペースを崩してしまい、立ち直るのにしばらく時間がかかった。その上、盛り上がっていた会場の雰囲気までも冷めてしまった。

男性による同じ行為は一度ならず、更に数度繰り返された。他の受講者も集中できず、結局は散々なセミナーになってしまった。

驚異的な携帯電話の普及に問題はらむ

携帯電話の普及は、世のひんしゅくを買う不作法を数々生んだ半面、その利便性は、日々の暮らしまでも一変させてしまった。

1995年末に、日本の携帯電話加入者数は約一千万人であったのに、五年後の2000年末には、六千三百八十八万人にも及び、なんと人口普及率で550%を超える勢い。その後も急増する一途である。機能面も多彩になった。

中でも、急速にシェアを伸ばしてきたJ・フォングループの売り上げは、2001年3月期で一兆円を超え、経常利益も一千億円に迫る巨大企業に大化けしてしまった。

携帯電話の普及ぶりは、数多くの利便を人々に与えたが、その一方で予想もできなかった特異な犯罪の温床にもなっている。文明の利器というものは、使い方を一歩誤ると、人命すら簡単に奪う凶器となり得る。

普及が最も顕著な女子学生の場合、その台数が三百万台を超えたといわれる。通話料は、一人平均一万六千円で、その費用の52%が親の負担だという。こうした事実から、新たな問題を生み出すのも十分に危惧されよう。

正しく使いこなしたい「文明の利器」

明時代の処世哲学書『菜根譚』の教えに、「逆境にあるときは、身の回りのすべてが良薬となり、節操も行動も、知らぬ間に磨かれていく。順境にあるときは、目の前のものすベてが凶器となり、身体中、骨抜きにされてもまだ気付かない」とある。自戒を促される。

ともかく、携帯電話を重用している人たちのマナーはあまりにもお粗末で悪すぎる。東京都では、公共交通機関における携帯電話の使用を禁止した。一般交通機関でも使用自粛を呼び掛けているが、実績は上がらない。

いっそのこと、新幹線やバス・電車などの公共交通機関では、東京都並みに携帯電話の使用を禁止してみてはどうだろうか。

いやいや、新幹線の喫煙車両と同じように、携帯電話の使用OK車両を定め、不作法者を一つの箱に乗せるのも面白かろう。お互いに快適な旅ができること請け合いである。

文明の利器は、正しく使ってこそ価値を生む。間違った使い方は世の中までも歪めてしまう。携帯電話に限らず、何事も「我が振る舞いを律する」ことから始めたい― と痛切に思う。

(2001年8月号掲載)