日々雑感~デイリーメッセージ~

平成26年3月27日(No6307)   仰げば尊しのすべて

仰げば尊しのすべて

もう十数年前の話になるがトイレ磨きのご縁でブラジル国を3度も訪問した。当時は有力な日系人たちがサンパウロ市で数多く活躍しており、その都度、身に余る歓迎を受けたことを思い出す。特に感動したのはとうに日本では歌われなくなっていた卒業式の定番「仰げば尊し」が歌い継がれていることだった。歓迎パーティーの度に肩を組んで歌ったものだ。

 

当時は作者不詳として明治17年に公刊された『小学校唱歌第三編』に登場した。ところが平成23年、桜井雅人・一橋大学名誉教授によって、原曲が『ソング・エコー』(1871)という歌集に載っていたことが発見された。同年、ニューハンプシャー州の学校の卒業式で歌われた記録が残っているが、その後は分からないという。名曲に命が吹き込まれた。

 

それにしても今日では歴史から忘れられたような歌集に載っている曲を、当時見つけたのは明治人のだれであったか。この曲を見出した選曲眼の持ち主は誰なのか、なぜこの曲が持つ秘められた音楽性を甘受できたのか、140数年を経て更に謎は深まるばかりである。この選曲眼の鋭さこそ、「明治の精神」の深さだと桜井名誉教授は言う。驚くべきはその国語力。

 

歌詞の二番に「身を立て 名を上げ 「やよ」励めよ」という一節がある。「やよ」という歌声の響きが分からなければ「仰げば尊し」の真価も分からないという。この一節は「立身出世」の掛け声ではない。「やよ」は明治の日本の「うらわかきかなしき力」の声だという。この説には深い根拠が示されている。このほど発売された「仰げば尊しのすべて」に詳しい。

 

近代日本の「うらわかきかなしき力」の歴史を思い出すためにも、また改正教育法にある我国の文化と伝統の尊重のためにも、この唱歌は歌い継がれなければならない。(都留文科大学教授・新保祐司「明治の心で蘇った「仰げば尊し」参照)